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真実(士郎side)
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「で、ゆきやという少年に関するデータは、得られたのか?」
『ん……』
やはり疲れ切った様子のハルトが頷いた。
『……びっくり……した』
ハルトのスローペースな話し方には慣れていたが、急いで知りたい情報だけに、どうしても気が急いてしまう。
「何が、どうした?」
語気の強さを敏感に感じ取ったハルトが、ビクッと震えて、口をつぐむ。
「……ああ、すまない。別に、怒ってるわけじゃないから、そう硬くなるな。ゆっくりでいい、話してくれるか?」
努めてやさしく言うと、未だ萎縮しながらも、ハルトがコクリと頷いた。
『ゆきやは……サード…』
「……は?」
『だから……サードが……ゆきや』
頭の中を、ぐるぐると言われた言葉が駆け巡る。
ちょっと待てと、頭を抱えた。
「ゆきやが……サード?」
今や、顔も見たくないほど嫌ってる相手が?
先程までの緊張による疲れも手伝ってか、軽い目眩を覚え、思わず近くの椅子に座り込んだ。
「そんなこと、言えるはずがない……」
『そーか? 血眼になって追っかけてたのは、トラばっかじゃなかったってこったろ? 相思相愛、めでてェ話じゃねェか。まァ、トラのヤロウは途中であきらめちまったみてェだけどな』
そうとも言える。
だが、昔の淡い恋の思い出と、憎しみに至るまでもつれた父親の愛人への嫌悪感。
どちらがより強く心に刺さるかは、ぶつけてみないことにはわからない。
驚きが希望や愛情に変わればいいが、憎しみや失望に終われば、手術前の大事な時期に、体調にさえ影響しかねない怖さがあった。
サードが言えずに苦しんでいるのも、真実を告げたところでけして良い方向には転ばないと、それだけ煌牙の憎しみは深いと、感じ取っているからだろう。
『どーする? バラすも隠すも、オマエ次第だ』
龍之介が試すように、スクリーンの向こうから見つめてくる。
おまえならどうすると聞こうとして、止めた。
秘められていた真実を掘り起こしたのは、他ならない自分だ。
助言に頼れば、あの時ああ言われたからと、逃げ道を生むことになる。
告げるにせよ、墓場までこの秘密を抱えていくにせよ、すべては自分の責任において決めるべきだ。
沈黙が流れた。
『……単純に考えろ』
やがて、龍之介が言った。
『テメェは、どうしたい?』
ハッとして、龍之介を見つめた。
『答えなんざ、端から出てンだろーが』
その通りだ。
「……全部、話す」
自分なら、甘い嘘など望まない。
どれほど厳しい真実でも、知った上で、自分なりの答えを見出したい。
命の極に立つからこそ見えるものも、きっとある。
すべてをなかった事として闇に葬るのも、手を伸ばすのも。
煌牙自身が決めるべきだ。
「まァ、順当な答えなんじゃねェの?』
龍之介が大きく伸びをして、立ち上がった。
『仕事が山積みなんでな、先行くぞ。ハル、細かいデータを送ってやれ』
それだけ言い置くと、振り返りもせずにモニターの枠外に消えていく。
礼くらい言わせろと、胸の中でため息をついた。
途端に襲い来る喪失感を、グッとこらえた。
次に声を聞けるのは、いったいいつになるのかと考えると、気が塞ぐどころではなく、本気で気落ちしそうになる。
単純に考えれば、電話をすれば済む話なのだが、用もないのにかけられるほど、気楽な立場の相手でもない。
『さびしい……?』
首を振りかけて、目の前にはもはやハルトしかいないことを思い出す。
「……そうだな」
愛しい相手と離れている者同士、時には慰め合うのも悪くはない。
「あいつの不在は、ひどく堪える。……秘密だぞ?」
『ん……、ひみつ……ね』
ハルトがくすぐったそうに、微笑んだ。
龍之介に本気の相手が現れたと知り、この世の終わりのように泣き崩れた面影は、すでにない。
「あんたは?」
『もちろん……さびしい……よ? でも…平気。毎日……電話くれる……し』
あのルイが、毎日電話?
「……それは、だいぶ愛されてるな」
感心したようにつぶやけば、ハルトの頬がピンクに染まる。
『えと……っ、データ…後で…送る…から。も…切る…ねっ」
わたわたと慌てたように、通信が途切れた。
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