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恐怖(士郎side)
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一通りの処置を終え、何とか煌牙の容体が持ち直した後。
事情を説明すると、ルイは容赦なく拳を腹に撃ち込んできた。
「何やってんだ、てめーは……!」
思わず片膝をつき、うな垂れた。
「……すまない」
「下手したら、必要なものもそろわないまま、緊急手術になってた可能性だってあるんだぞ!? その場合、成功率はゼロに近い。話すにしても、万全の準備をしてからってのが筋だろーが。それを……っ」
ルイの言う通りだ。
当然、こうなる事態も考えておくべきだったのに、まるで気が回らなかった。
とにかく早く伝えなくてはと、気が急くままに突っ走ってしまった。
否、自分一人では抱えきれない秘密を打ち明けて、単に少しでも早く楽になりたかったのかもしれない。
……情けない。
これで学園のトップだなど、笑わせる。
ルイがチッと舌打ちした。
長い金髪をかき上げ、ため息をつくと、ポケットから飴玉を取り出して、己の口に放り込む。
「……おまえも食え。少しは落ち着く」
震える手で、飴玉の包みを受け取った。
包みを千切り、口内に放り込むと、ふわりとやさしいブドウの香りが漂った。
ルイに震える手首をつかまれ、床から引き上げられた。
「……怖かったろ?」
「……ああ。死ぬほどな……」
「二度と勝手に動くなよ。患者のことは何でも、主治医に相談するのが鉄則だ」
「肝に銘じておく」
「なら、この話は終わりだ。今夜はオレもここに泊まり込む。準備をしてくるから、何かあったらすぐに呼べ」
ルイが出て行くと、静かな部屋の中、煌牙の胸につけられた心電図の音だけが異様なほど大きく耳に響いた。
ピッ…ピッ…ピッ。
命を刻む音がした。
時折波形は乱れたが、確かにこの瞬間も煌牙は生きている。
心底ホッとして、再び震えが止まらなくなる。
……どうかしていた。
焦るあまり、すべてを終わらせてしまうところだった。
と、その時、煌牙がようやく目を覚ました。
「煌牙……っ? ……苦しくはないか?」
のぞき込むものの、答えはない。
「驚かせて、すまなかった」
「……るせぇ。話しかけんな」
すべてを拒絶する瞳。
再び隙間なく閉ざされた扉を前に、立ち尽くすしかなかった。
結局、古傷をえぐっただけだったのかと、苦しくなる。
だが、自分より遥かに苦しいのは、煌牙自身だ。
やさしい記憶と結びつく、たった一人の相手は、探し当ててみれば自分のせいで地獄の日々を送っていた。
その上、憎んで余りある父親の愛人になり果てていて……。
運命は煌牙に厳し過ぎた。
どうにかしてやりたいと思うが、打つ手などなく。
結局ルイが戻ってくるまでの間、長いことその場から動けずにいた。
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