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無力感(士郎side)
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あれから煌牙は一日中、ぼんやりと窓の外を見ていることが増えた。
手術も好きにすればいいと、すっかり他人事だ。
生きる気力を失っていると、傍目にもはっきりわかった。
せっかく緩みかけた扉も、再び隙間なく閉ざされてしまい、今ではもう会話が成立していたことさえ、遠い昔のように感じられた。
食事にも手をつけようとしないから、栄養は必然的に、すべて点滴で落とすようになった。
あれほど熱心にいじっていたパソコンにも、あの日以来、見向きもしない。
動かさない手足は日に日に筋肉を失い、病的に細くなっていく。
たまらず廊下に出るなり、壁を殴りつけた。
深くため息をついて、何とか気分を立て直すと、錯乱状態にあるサード……雪夜のもとを訪れた。
雪夜はうわ言のように煌牙の名前を呼び続けていた。
二人を会わせたら、何かが変わるかもしれない。
そうは思うものの、こんな錯乱した雪夜の姿を見せたら、それこそ取り返しのつかないことにりそうで、ただただ煌牙は無事だと伝え、ポロポロと子供のように泣く雪夜を慰めて終わる日々が続いた。
「会いたい……っ」
今夜もまた、血を吐くような言葉が胸をえぐる。
「嫌だ……っ、坊が死んだら……っ、僕も死ぬ……っ」
手首に拘束のためのバンドが食い込み、保護のために巻きつけたガーゼを鮮やかな朱色に染めていく。
「お願いだから……この心臓を、坊にあげて……っ」
「……煌牙は大丈夫だ」
おざなりな言葉しか言ってやれない自分に、無力感ばかりが募っていく。
何の根拠もない希望を口にしているだけだと、自分でもよくわかっていた。
「坊を……返して……っ」
わめき散らす雪夜に、はぁ……、とファースト達が、天を仰ぐ。
「悪ぃが、もう限界だ。オヤジからも散々せっつかれてる。コイツはこのまま送り返すことにした」
「……っ、彼はどうなる?」
「さぁな。すべてはオヤジ次第だ」
ファーストの表情を見るに、到底、ただでは済みそうにない。
「……とても帰せないな」
「なら、てめーがどうにかしろよ!」
ファーストがイライラと壁を蹴りつけた。
「おまえには、坊を世話してもらってる恩がある。けど、こっちにはこっちの事情があんだ。……オヤジには逆えねぇ」
「逆らったら?」
「……決まってんだろ」
ファーストが昏く笑った。
「大事なもん全部潰されて、切り刻まれて、捨てられて終わりだ」
ゾクリと背筋が震えた。
「どーにもなりゃしねーよ。オレらの人生なんざ、クソみてぇなもんだ。始まった瞬間から、終わってる」
「……っ、そんな人生があってたまるか」
うめくようにつぶやけば、
「……サンキュ」
ファーストが小さく笑った。
「ほら、もう行けよ。あんま一人で、気に病むな」
落ちた肩を叩かれ、己の無力さ加減を噛み締めた。
理不尽だと拳を握りしめても、何をどうしてやることもできない自分が情けなく、惨めで、ただひたすらに無力だと思った。
……あいつなら。
龍之介なら、きっと大事な相手が傷ついていたら、どんなことをしてでも守るのだろう。
実際、それだけの力もある。
自室に戻ると、明かりもつけないままベッドに倒れ込んだ。
と、不意に室内の壁がまばゆく輝き、驚きの中で顔を上げた。
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