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貸し(士郎side)
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『……よぅ』
毒のように甘い声。
スクリーンに映る、人を食ったような皮肉気で斜めな笑顔。
『ずいぶん、落ちてるみてェだな。つーか、いつまで待たせる気だ?』
「……何を…」
『いい加減、頼ってこい』
「……っ」
嘲りと深い包容力が渾然一体となった一言が、泣き出してしまいそうなほど深く、心に染みた。
キツく目を閉じて、安堵した。
一人で抱えなくてもいいと言われた気がした。
『こっからは、裏の世界の仕事だ』
色濃く立ち上る闇の気配に、ハッとして、身体を起こす。
「危険なことは……」
『オレらが相手にしてンのは、いっつもそんな相手ばっかだぜ? まァ、普段よか気合い入れなきゃなんねェのは確かだけどな。……ンとに、リンのヤツも手のかかるトラを送ってくれたモンだ』
けどまァ、久々に熱くなってきた、と不敵に笑う。
危険が増せば増すほどに、鮮やかに燃え立つ。
その炎に魅せられ、置かれた状況も忘れて、つい見惚れてしまった。
『最近は、貸してばっかだな。……どうやって返してくれる?』
「……何でも」
ひどく罰せられたい気分で答えれば、驚いた顔の龍之介が、ニヤリと笑う。
『なら、脱げよ。……全部だ』
止めどなく濡れていく声と瞳に、全身がカァッと熱くなる。
普段なら確実に拒んだろう。
だが、やり切れなさと敗北感、安堵と憂いが渦巻く心と身体を鎮めるには、これに勝るものはないと、本能的にわかってもいた。
すべてを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿をさらす。
見つめられているというだけで、焼かれているように全身が熱かった。
龍之介がどこをどう見つめているか、視線を落としていても、わかってしまう。
時に舐めるようにねっとりと、時に噛み跡を残すかのように激しく、視線がゆっくりと全身を這う。
皮膚が泡立ち、欲望に濡れた。
『ほら、触って見せろよ』
「……っ」
ベッドで半身を起こしたまま、緩く勃ち上がった下肢に、ためらいがちに手で触れた。
「……っ」
さざ波のような快感が、つけ根から先端へと這い上がっていく。
己の手で触れているはずなのに、独りでする時とはまるで違う、密度の濃い快感と高揚感に目眩がした。
あいつが見ている……。
そう思うだけで、感覚神経が普段の何倍も敏感に反応した。
一度触れたら、もう止まらなかった。
ひと撫でするだけで、溢れた蜜がヌチュ……と淫らな音を立てる。
下腹が痙攣し、はぁ……、と深く息を吐いて、声を抑えた。
このまま一気に駆け上がってしまいたい。
疲れ切るまで吐き出して、深く……何もかも忘れて、眠りたかった。
なのに、
『……そっちじゃねェだろ』
龍之介が違うと舌を鳴らした。
「……?」
『ベッドサイドの棚に、ローションが入ってる』
「……っ!?」
意図を悟り、青くなった。
『自分の指をオレのだと思え。……それとも、尻尾巻いて逃げ出すか? どーしてもできねェって言うンなら、許してやってもいいけどよ』
屈辱的な言葉の羅列に、カッとした。
「……誰ができないと言った?」
勢いで食ってかかった後、死ぬほど後悔したが、時すでに遅かった。
してやったりと笑われて、まんまと罠に絡め取られたことを知る。
今さらできないとは、口が裂けても言えなかった。
やってみたが苦しいだけだったと事実を吐露するくらいなら、死んだ方が遥かにマシだ。
とりあえず指を挿れて、苦痛に歪む様を見せれば満足するだろう。
屈辱を噛み締めながら、サイドボードに手を伸ばす。
見るからに妖しげな、紅ラベル。
取り出したボトルは、何やらいつも使われていたものとは種類が違う気がして、戸惑った。
無闇やたらに手を伸ばすべきではないと、勘が告げる。
だが、
「……ご褒美、くれンだろ?」
甘く濡れた声で強請られれば、理性が脆くも甘く、崩れていく。
煌牙を傷つけた愚かな自分を罰して欲しい思いも手伝って、脳内に響き渡るアラームに、あえて気づかない振りをした。
今夜の自分はひどく弱っている。
いつかの夜の龍之介のように。
あの夜、初めて龍之介を抱いた。
愛しい者を癒せる自分に、身体以上に魂が深い充足感を得たことを、覚えていた。
命を取り合うように愛し合いたいと望む龍之介には、もしかしたら今夜の自分ではまるで物足りないのかもしれない。
だが願わくばわずかでも、あの夜の自分のように、果てしない夜の闇に小さな火を灯すような温もりを感じてくれたらいい……。
祈るように、そう願った。
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