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進む(龍之介side)
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右手を上げて、進めと指示した。
緑がそよぐ音に紛れて、歩を進める。
その昔、夜盗はその家の主人と呼吸を重ねることによって気づかれずに宝を盗み出したという。
襲撃もそれに近いものがあった。
どれだけ場の空気を乱さず、溶けこめるか。
幼い頃、ジンから繰り返し言い聞かされた。
作戦として一番鮮やかなのは、何だと思う?
敵に気取られずに、肝心要を押さえることだ。
派手に撃ち合いを演じることじゃねぇ。
そこんとこ、履き違えんなよ?
10にも満たないガキに、戦いの真髄を真面目に説いた。
まったく、おかしな親もいたものだ。
だが実際、ジンの教えはその後、大いに役立った。
風のように走る。
野生児として育てられたせいだろう、周囲の自然に自分を溶け込ませるのは、あたかも空気を吸うように容易かった。
研ぎ澄まされた神経に、わずかな揺らぎが引っかかる。
背後から近づいて口を覆うと、適度に首を絞めて、落とした。
銃を奪い、ワイヤーで身動きを封じると、茂みに身体を転がし、先を急いだ。
『塀の向こう、扉の内側に二人。10時と4時方向』
監視カメラ映像を乗っ取ったハルトから、随時報告が入る。
相変わらずミッションの時だけは滑舌がやけに滑らかだ。
理由を問うても、本人にもよくわからないらしい。
『今、ダミー画像にすり替えた。塀のセキュリティーシステムも切ってある。猶予は3分。急いで』
さすがはハルトだ。
「余裕だろ」
周囲の安全を確保をするよう伝えて、サブマシンガンを背負うと、3メートル近い壁に飛びついた。
塀の上部にかけた手にグッと力を込める。
脚をかけて、乗り上げた。
気取られる前に両手を撃ち抜き、戦闘力を奪う。
予期せぬ痛みは大抵、一瞬遅れてやってくる。
叫ばれる前に、気絶させた。
逆側のもう一人も、小隊のメンバーが落としている。
セキュリティーを乗っ取っているとはいえ、物音は敵方の耳にも届いているはずだ。
ボスが滞在しているのなら、別邸でもそれなりの人員は配置しているだろう。
ここからは時間との戦いになる。
煌牙の父親の寝室は数カ所あり、そこを不規則なローテーションで使いまわしているという。
襲撃に備え、決まった場所で眠らないのは定石だ。
ドンの命は組の存続に直結する。
不規則なローテーションをハルトが解析し情報収集した結果、最終的に二箇所にまで絞ることに成功した。
寝室はそれぞれ真逆の場所にあった。
間違った方を襲撃すれば、致命的なミスになる。
『ハル、どうだ?』
「確証がない」
耳を澄ませた。
暗視スコープで未だ動きのない屋敷を見渡した。
一瞬の後、迷わず右を選んだ。
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