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驚き(雪夜side)
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信じられない。
自分は夢でも見ているのだろうか……?
「坊……?」
「……ああ」
「ふ……ぅ……っ」
一気に涙が溢れた。
……よかった。
生きていてくれた……!
両手で顔を覆って、嗚咽を殺した。
「ごめ……なさ…っ….」
坊に会いたいばかりに敵方についた自分を、許してもらえるとは思わない。
ただ、謝りたかった。
苦しめて、ごめんなさい。
好きになって、ごめんなさい。
でも大丈夫、すぐに目の前から消えるから。
最期に会ってくれて、ありがとう。
あなたが好きです。
ずっと……ずっと、好きでした。
できれば坊の前で逝きたかったけれど、これ以上、あなたを穢したくはないから。
僕のことは忘れてください。
雪は溶けて、大地に還る。
そうして、いつかまた、あなたの上に降ることができたなら。
その時は温かく、見守ってください。
力の入らない脚でよろよろと立ち上がった。
「……っ」
つまずき、座り込むと、坊の腕が伸びてきた。
ようやく止まりかけた涙腺が、また狂ったように崩壊してしまう。
強張った腕。
険しい顔。
本当は同じ空間で息を吸うことさえ、耐え難いに違いない。
けして許されることはないのだと、繰り返し思い知らされた。
坊の腕を振り切り、赤ん坊のように地べたを這って、ドアを目指した。
「いつまで泣かせるつもりだ?」
不意に開いたドアから入ってきた生徒会長に、抱き上げられた。
「や……っ」
暴れても、立ち上がることさえできない身体は、軽く押さえつけられてしまう。
それでも、本能が急所をとらえていた。
目の前の首に噛みついたと思った、その時だった。
愛しい人の呻き声を聞き、慌ててアゴの力を抜いた。
「……ってぇ…っ」
見れば、坊が腕からダラダラ血を流しながら、壁にもたれていた。
「ひ……っ」
「バカ、腕を出せ!」
誰かが駆け寄り、手早く止血し始める。
「てめぇは何、そいつなんかに噛みついてやがる!? オレだろ……? オレのタマ取りに来たんじゃねーのかよ!?」
坊が何を言っているのか、わからなかった。
「ど…して……?」
どうして、僕があなたを消すの?
「オレがおまえの人生、めちゃくちゃにしたからだろーが……っ」
「めちゃくちゃ……?」
「好きでもねぇ男に股開いて、殺しの道具にされて……。充分、めちゃくちゃじゃねーかっ」
「でも……あなたに会えた……」
正しい道を歩いてきたとは思わない。
関係ない人達をずいぶん傷つけてきた。
それでも。
後悔しているかと聞かれれば、それは違う。
すべては坊につながる道だった。
坊を傷つける者はすべて、排除する。
たとえそれが自分自身でも。
「……もう行かなきゃ……」
「行くって、どこに……!?」
坊がなぜ怒っているのか、わからなかった。
いらない人間が消える。
単に、それだけのことなのに。
……ああ、そうか。
腕を食い破った償いが、まだだった。
己の腕にためらいなく噛みつくと、力の限りに食い千切った。
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