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衝撃(雪夜side)
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「おまえ……っ」
駆け寄ってきた坊に、思い切り頬を張られた。
そのまま、服が血だらけになるのも構わず、抱きしめられた。
「煌牙っ、走るな!」
「るせぇ……!」
「とにかく、止血させろ!」
坊を止血したのと同じ声が、言った。
「おまえはもう、黙れ……」
坊が疲れ切ったように座り込む。
「やっと見つけたってのに……、何勝手に死のうとしてんだよ……」
「だって……嫌でしょう……?」
大嫌いなドンのお手つきなんて、見ているだけで不愉快に決まってる。
避けては通れない道だったとはいえ、その一点だけは、今でもひどく後悔していた。
初めて汚された時は、血が出るまで狂ったように中や全身を洗い、自分で自分を壊す気かと、教育係を呆れさせもした。
「……てめぇを汚した親父は、死ぬほどムカつく。……けど」
ギリッと奥歯を噛み締める音がした。
「それでてめぇを嫌うのは、違ェだろ」
「……っ、だって……、二度と顔見せるなって……」
「そりゃ、おまえが……っ、……くそ…っ」
坊が長めの黒髪を搔きむしる。
坊が何を言いたいのかわからなかった。
長い沈黙が落ちた。
「縛るぞ」
ギュッと横から止血されても、不思議と痛みを覚えなかった。
傷なんかどうだっていい。
全神経が坊に向かう。
坊の言葉なら、永遠にこのまま待ったっていい。
坊から与えられるものなら、心をえぐる傷だって愛しかった。
やがて、聞き取れないほどかすかな声がつぶやいた。
「オレだって……さんざんおまえを探したんだ」
「……っ」
心臓が……止まるかと思った。
「……けど、まるで見つかりゃしねぇ」
当時を思い出すかのように、坊の目が苦しげに細められた。
「なんで……っ、なんでオレなんかを追ってきた……?」
なんで……?
そんなの、
「坊は光だから」
闇を照らす、たった一筋の光だから。
「……っ、んなキラキラした目で、オレを見んな……。オレは……そんなんじゃねぇ。おまえが憧れるような、そんな男じゃねーんだ」
言ったきり、壁にもたれたまま己の片膝を抱え、黙り込んでしまう。
なぜ、そんな苦しそうな顔をするのだろう?
自分のせい?
「ごめ……なさい……」
坊を傷つけることしかできないなら、自分なんていらない。
やっぱり、そばにいたらダメなんだ。
ドアの位置を確認すると、坊が叩きつけるように、無事な方の拳で壁を叩いた。
「逃げんなっつったろ!」
ビクッと震えた。
「オレは……脱落者だ」
違うと言いかけて、口をつぐんだ。
きっと坊の耳には届かない。
できるのは耳を傾けることだけだ。
坊のつらさを……やり切れなさを。
すべて吸い取れるスポンジになれたらいいのに。
「強さだけがすべての世界で腕をもがれて、ただ死んでいく、惨めな獣だ。人なんかまるで信じてねぇくせに、助けてやるって言われて、情けなくすがった」
プライドも何もあったもんじゃねぇ、と嘲るように笑う。
とその時、生徒会長である士郎の、揺らがない声が降ってきた。
「可能性にすがって、何が悪い? 命の極でもがくのは、人の本能だろう」
「……ほらな。このお節介ヤローに毒されたんだ」
責めるようでいて、ほんのわずかだが、駄々っ子のような甘えを含んだ物言い。
坊はこの人が好きなのだと、一瞬にしてわかってしまう。
誰も寄せつけない、冷ややかな刃のようだった坊に、ようやく大切な人ができたのだ。
よかったと思うべきなのに、どうしても苦しさの方が先に立つ。
……ああ、そうか。
自分はもう、いらないのか。
視界が歪んだ。
「……は!? なに泣いてんだよ……っ?」
焦ったように、坊がキレる。
「え……?」
坊が動く方の手で、頬に触れたきた。
驚いたように見つめれば、
「あーもう、何を黙って泣かせてるんだ……」
士郎の呆れたような声に、るせぇ、とハスキーな声が重なった。
「ったく、何だってそう暴走列車みたく、突っ走んだよ……」
「……っく」
坊を困らせている。
早く泣き止まなきゃと思うのに、止まらなかった。
「……っ、オレんとこに来たかったんだろ……? だったら、隣にいりゃいーじゃねーか!」
その何が不満なんだと、叩きつけるように言われ、頭が真っ白になる。
隣に……いてもいいの……?
頭上から、クスッと笑い声が降ってきた。
「まるで嫁に来いとでも言わんばかりだな」
「……んだと!?」
「悪い、茶化したつもりはないんだ。ルイ、傷の具合はどうだ?」
「とりあえず止血はしたが、さすがにこりゃ、デカイ跡が残るぞ。キレーな肌してんのに、もったいない。で、煌牙、おまえは早いとこ横になれ。鉄剤と抗生物質の点滴だ」
「空気読めよ、クソ医者が……っ」
煌牙がチッと、舌打ちした。
何がどうなっているのかわからず、呆然としていると、士郎が再びやさしく微笑んだ。
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