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身柄(雪夜side)
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「煌牙はこれから命がけの手術に臨む。そばで支える人間が必要だ」
「それは、あなたの方が……」
「そりゃ、無理だな。こいつにはヤキモチ焼きのダンナがいてよ、そいつがヤベェの何のって。……なぁ?」
「……バカなことを」
紅くなった首筋を抑えながら、士郎がルイを睨む。
その表情から、他に愛して止まない相手がいるのだとはっきりわかった。
ハッとして坊を見れば、間近から何だと睨みつけられる。
坊の好きな人は坊を好きじゃない……?
だったらまだ、自分は坊のそばにいていいのだろうか……?
わずかな希望が胸に芽吹き、身勝手な自分を心底恥じた。
うつむいた濡れたままの頬を、グイッと乱暴に拭われ、驚きの中で、再び恐る恐る坊を見つめた。
「ガキのお守りはごめんだ。……泣くんなら、次は問答無用でブン殴る」
ビクッと震え、慌ててコクコク頷いた。
はぁ……と坊が、ため息をつく。
「……寝る。飯ができたら、起こせ」
雪夜を士郎に預けると、煌牙はそのままベッドに倒れ込んでしまう。
「坊……っ」
「大丈夫、少し疲れただけだろう」
心臓の波形は安定していると言われ、ホッと全身の力を抜いた。
「とにかく、そのぐちゃぐちゃな腕の処置から始めるか」
ったく、ナイフでスパッと切ってくれりゃ、処置も楽なのにと、ルイと呼ばれた男が毒づきながら、立ち上がる。
「オペ室から必要な道具持ってくる。おまえは生徒会のガキどもを使って、ベッドをもう一台運ばせろ。で、お嬢さん、あんたもオテンバは程々にな?」
乱暴に頭を撫でられて、唖然とした。
「おじょ……!?」
「荒れていた煌牙が落ち着いて、ルイなりに感謝してるんだろう」
今のやり取りのどこから感謝を感じ取ればいいのか、まったくもって謎だったが、わかったのは、士郎がとてつもなく周りをよく見ていて、あらゆるバランスシートの中心にいるということだった。
「本当に、今日までよく頑張ったな」
尊敬さえ透けて見える物言いに、思わず涙が溢れかけて、慌てて瞬きを繰り返す。
温かみのある、さらりとした控え目なやさしさが、深く胸に染みた。
猛獣のような坊が懐いたのが、よくわかる。
一番欲しかった言葉をくれて、あとはただ、そっと寄り添ってくれる。
その何と心強いことか。
この人の代わりが務まるかはわからないけれど、坊が望んでくれるのなら。
どこまででもついて行こうと、心に決めた。
「あ……」
すうっと血の気が引いていく。
「どうした?」
「ドンに何て言えば……」
幸せ過ぎて、忘れていた。
自分が誰のお抱え人形なのかを。
「それなら、心配いらない。龍之介が話をつけた」
「りゅうのすけ……さん?」
「ああ、悪い……。オレの……その……なんだ、パートナーとでも言うか……」
歯切れ悪く言いながら、士郎が己の首筋を、何度も撫でる。
普段は誰にも負けないほどの硬質な空気感を漂わせているのに、照れたり、瞳が揺らぐと、途端に匂い立つほどの色香が漂う。
このギャップは反則だ。
坊が惚れるのも、納得できた。
自分にも、この人の100分の1でもいいから艶っぽさがあれば、坊を振り向かせることもできたのだろうか?
そんなことを考えていたものだから、
「君のボスと龍之介が話し合って、君の身柄は煌牙に一任されることになった」
言われた言葉が、束の間、脳裏を素通りした。
「……そうですか。……って、ええっ!?」
今度こそ大声で叫んでしまい、慌てて坊の寝ているベッドを見つめたが、起きる様子はなく、とりあえずはホッと肩の力を抜いて、本格的に士郎に向き直った。
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