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幸せ(雪夜side)
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「今……何て……?」
「龍之介が君のボスとの賭けに勝ったらしい。戦利品して、君やファースト、セカンドやその家族の自由を譲り受けた」
あのドンが、大人しく駒を手放すはずがない。
自ら火の粉を撒き散らし、炎の中で踊り狂うのを好むような人だ。
どれほどの抗争に発展し、どれだけの人が傷ついたのかと思うと、背筋が凍えた。
「龍之介さんは……無事……なんですよね?」
「ピンピンしてる。双方共に、深刻な怪我人は出なかったらしい」
「そう……ですか」
もう、誰も殺さなくていい……?
誰とも、寝なくていい……?
張り詰めていた何かが、ゆるゆると解けていく。
「何て……お礼を言ったらいいか……っ」
「礼はいらない。あいつはもともと、君のような子供を救う組織の人間なんだ」
士郎の瞳が遠くを見つめ、あいつにとっては戦場も趣味と実益を兼ねた本気の遊びの場だからな、と呆れたように微笑んだ。
自分なら絶対にこんな風には笑えない。
この人の強さは耐え忍んだ果てに身に付いたものなのかと思ったら、何だか胸がキューっと詰まって、たまらなくなった。
胸元を握ると、大丈夫だと頭を撫でられた。
違う……、つらいのはあなたでしょうと言おうとした時だった。
不意に廊下が騒がしくなったかと思ったら、ドアが開き、いきなり簡易ベッドが運び込まれてきた。
「はいはーい! ベッドですよーって、士郎さんっ、さっそく浮気っすか!?」
王子様のような上品な顔立ちの少年が、こりゃ一大事だとばかりにうるさく騒ぎ立てる。
「……ジェイ、お前は少し黙れ。煌牙のベッドをこっちに寄せて、壁際に簡易ベッドを置いてくれ」
「くっつけちゃって、いいんだよね?」
片や少女のように愛らしい、フワフワした髪の少年が聞いてくる。
「ああ。隙間なくピッタリ、くっつけてくれ」
「ラジャ」
「あの……」
「煌牙が寝ぼけて、落ちないための処置だ」
そう言われてしまえば、これ以上強くも拒めなくて。
坊の隣だなんて、はたしてまともに眠れるだろうか?
「この子が雪夜ちゃん? めちゃ、かわいーっ。僕、克己、よろしくね。彼は達っちゃん、僕の恋人なんだぁ」
ふわふわ髪の少年がニコニコと、やけにフレンドリーに話しかけてくる。
「元気になったら、 トラ君が見惚れるくらいかわいく変身させたげるからね? 楽しみにしてて」
「トラ君……?」
「煌牙君のこと! 好きなんでしょ?」
ボッと頬が熱くなる。
「そんな、僕なんか……っ」
「あーもう、かわいいなぁ。ダメ、僕、こーゆー健気な子に、とことん弱いんだ」
ギュウギュウ抱きしめられると、苦しいけれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
誰かが自分のことを気にかけてくれるのは、こんなにも幸せなことなのか。
「……ふふっ」
「あ、笑った!」
「マジ、やべぇ。みどりの次くらいに、かわいい……!」
「僕は? てか、ひーちゃんに言っちゃおーっ」
「あ、姫! 待て、コラ! マジやめて……っ」
「こらっ、ジェイ、みーちゃんに触るなっ」
三人が来た時同様、ワイワイ騒ぎ立てながら、走り去っていく。
「……まったく、うるさいヤツらだ」
「……でも、何だろ……とっても温かかった」
心配してくれているのが、視線や口調、態度の端々から伝わってきた。
「……そうか。年も近いし、きっとすぐに仲良くなれるだろう。ベッドも来たことだし、いい加減、少し横になった方がいい」
抱き上げられ、そっと坊の隣のベッドに寝かされた。
こちらに背を向けて寝ているせいで表情は見えなかったけれど、手を伸ばせば届く距離に坊がいた。
それだけで、夢みたいに幸せだと思った。
安心した途端、すーっと意識が遠のいていく。
……坊。
あなたのために、いったい何ができるだろう?
繰り返し問いかけながら、いつになく甘く安らかな眠りに落ちていった。
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