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月(龍之介side)
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腰ポケットに入れたスマートフォンが、何度も震えた。
……いったいどれだけ呼んでくれるんだか。
そんなに他の男に咥えさせるのが嫌なのか。
憐れで愛しさが募る一方で、もっと泣かせてやりたい欲が膨れ上がる。
相反する想いが交錯し、目の前の戦闘以上に気分を高ぶらせてくれた。
もっとも、いったん戦いが始まってしまえば、ありとあらゆる思考は勝ちを望む本能に飲み込まれ、頭の片隅へと追いやられてしまうのだが。
ただ一人と定めた恋人への想いでさえ、戦いの熱の中では遠く霞み、見えなくなる……。
まったく、薄情なことこの上ない。
せめて優勝を手に、ご機嫌うかがい……もとい、傷つきながらも毅然と立とうとする、凛とした恋人の姿でも拝ませてもらうとするか。
焦らせば焦らすほど色香を放つ相手だけに、本当はあまり頻繁に連絡を取りたくはないのだが。
まったく思うようにならないと、密かに笑いを噛み締めた。
バランスシートはいつだって、イーブンがいい。
自分ばかりが優位に立つような関係では、物足りない。
常に煽り煽られ、苦しみと表裏一体なほどの愛しさに、魂ごと焼かれていたかった。
「リュー!」
どうやら順番がきたようだ。
「……今行く」
手を上げて、もたれていた壁から身体を起こした。
直前に気持ちよく抜いたお陰が、適度に身体が軽かった。
少しずつ呼吸の数を落として、集中を深めていく。
戦闘を前に、伏せられた視線の先に見るのは、なぜかいつも等しく、サバンナで見た紅い月の姿だった。
季節や緯度のせいなのか、日本のスーパームーンよりも遥かに大きく見えたそれは、地上に近い場所で凶々しくも美しく輝いていた。
静寂に包まれた砂漠に、金色の光に照らされた砂丘が光と影を形作る。
幻想的で美しく、底知れない畏怖を感じさせるあの光景は、育ての親であるジンを失うかもしれないと恐怖した子供時代の傷と相まって、忘れえぬ鋭さで胸の奥深くに突き刺さっている。
前々から好きだった月だが、士郎に惚れてより一層、愛着が増した。
静かに凛と香る色香がいい。
地下にいるとなかなか月を仰ぎ見ることも叶わなかったが、今夜にでも時間を見つけて地上に出てみようと決めた。
季節もいいし、昔ジャングルで夜を明かした時のように、月に見守られて眠り、明けていく空と共に目を覚ますのもいいと思った。
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