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やさしい時間(士郎side)
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手術の準備が整ったとルイから連絡が入り、手術説明と最終的な意思確認のため、連れ立って煌牙たちの部屋を訪れた。
普段から晴れた冬の早朝のようなピリッとした雰囲気の漂うルイだが、今や研ぎ澄まされたナイフのような冷気が全身をくまなく覆っていた。
しっかり足元を踏みしめていないと、隣を歩くことすら難しい。
目に見えない圧を感じた。
戦っているのは何も煌牙ばかりではない。
手術を行うルイにも相当な覚悟が必要なのだと、改めて身が引き締まる思いがした。
その手の中に人一人の命を預かるというのは、いったいどれほどの重圧なのか。
自分と大して年の変わらない男が、弱音一つ吐かずにその重圧に耐えている。
ルイから常々感じる凄みは、そうして耐えてきた長い年月の重みなのかもしれない。
自分にできるのはただ見守り支えることだけだ。
煌牙の生命力を信じ、ルイの腕を信じ、精一杯戦ってこいと背中を押してやることだけで。
己の無力さに打ちのめされながらも、明日は今よりわずかでも仲間の役に立てる自分になることを誓い、仲間が必死に戦う姿を心の奥底に焼きつけると決めた。
「入るぞ」
インターフォンで告げると、ドアを開けた。
ベッド上で半身を起こした煌牙のそばに、雪夜が寄り添うように腰かけている。
二人の、風の凪いだ日の湖面のように澄んだ瞳の深さに、たじろいだ。
煌牙はさすがに身体がつらいのか、疲れた顔をしていたが、その表情はまるで憑き物が落ちたように、ひどく安らかだった。
思わず微笑むと、
「……んだよ」
さすがに嫌そうに睨まれた。
「坊、薬の時間ですよ」
雪夜が思い出したように席を立つ。
手渡された小さな錠剤を煌牙が素直に口に放り込み、ストローの刺さったペットボトルを受け取った。
わずかにむせた煌牙の背中を、雪夜が優しくさする。
「……ジロジロ見てんじゃねぇ」
「すまない」
「ったく、てめぇはいっつもそーだ」
謝りゃいいってもんじゃねーんだよ、と煌牙がブツブツと言い募る。
雪夜が申し訳なさそうな視線を送ってきたが、照れ隠しだとわかっているだけに、むしろ口元が緩むのを抑えるのに必死だった。
あの手のつけられなかった野生の虎が、丸くなったものだ。
昔なら確実に物が飛んできた。
今ではじゃれ合うようなやさしい温もりがあるばかりだ。
その温もりが愛しくて、切なくて、胸の奥がギュッと引き絞られる思いがした。
こんなにも想い合う二人を、けして引き裂いてはならない。
手術の説明を始めたルイの言葉に耳を傾けながら、改めて自分にできることを全力でしようと、心に誓った。
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