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託された想い(士郎side)
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詳しい手術説明の後、煌牙から二人で話がしたいと声をかけられた。
「……坊」
「いいから、出てろ」
「……っ」
傷ついた顔でうつむく雪夜に、煌牙がはぁ……と、ため息をつく。
ガシガシと片手で髪をかき乱し、先に雪夜と話すから外で待ってろと、一人廊下に出された。
壁に背もたれ、思いを巡らせていると、うつむきがちな雪夜が姿を見せた。
チラと送られてくる視線は甘く溶けて、陶器のように白くなめらかな頬はほんのりピンクに染まっている。
視線が合うなり、ペコッとお辞儀をして、慌てたように走り去っていく。
思わず、こちらまで照れてしまいそうな甘い空気感に、口元を覆った。
いったい何があったんだか。
想像などしたら頬が緩むどころでは済まなくなりそうで、慌てて思考を煌牙に向けた。
人払いをしての話など、到底楽しいものではありえない。
だが、明らかに何かを託そうとしている。
言われるまでもないとは思いながらも、自分が逆の立場なら、やはり言葉にして託したいと思うのだろう。
「入るぞ」
向き合ってからもしばらくの間、無言の時間が続いた。
「……もし」
言ったきり、再び煌牙が再び口をつぐむ。
葛藤が透けて見えた。
答えはすでに、煌牙の中にある。
ただ、それを口にするのが苦しくて、やり切れなくて、心が凪ぐのを待っているだけで。
こんな時はただ黙って待てばいい。
一時間でも二時間でも待てる。
幸い、気は長い方だ。
そうして、永遠のように長い時が過ぎた後。
「……もしオレに何かあったら」
そこまで言って、煌牙は深く息をついた。
「あいつを……頼む」
ようやく視線が重なった。
この世のすべての悲痛さと覚悟とを凝縮したような、ひどく深い瞳の色に、打たれた。
「あいつはあの通り、オレの後を追う気でいる」
驚きはなかった。
そうでなければ、あれほど静かな瞳の理由が見つからない。
「追うなとは……言えねぇだろ。笑えよ……。らしくもなく嬉しいとか思っちまった」
煌牙が己の前髪をつかみながら、やり切れなく笑った。
「止められるもんでもねぇ。……わかってる。けど、生きられるんなら生きなきゃウソだろ」
共に来て欲しい。
……生きて欲しい。
相反する想いの中で揺れ、傷つき、それでもなお引き絞るように紡がれる言葉。
「一年だけ耐えろ。それでも気持ちが変わらなけりゃ、好きにしていい。そう、伝えてある」
ギリギリの場所で、二人がたどり着いた答え。
「その間、彼を見守ればいいんだな」
「……頼む」
思わず、クスッと笑ってしまった。
「初めてだな。おまえから頼りにされるのは」
「……ざけんな」
「悪くない気分だ」
「くそっ、ぜってぇ生き延びてやる。誰がてめぇの世話になんざなるか」
それでいい。
意地でも自坊自棄でも、未来につながる力なら。
すべてを推進力に変えていけ。
「全力でサポートする。心置きなく戦ってこい」
頭を撫で用意とした手を叩き落とされ、笑いながら部屋を後にした。
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