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願い(雪夜side)
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頭の中を坊の言葉が駆け巡る。
幸せなのに哀しくて、甘く溶けた表情はいつしか涙に変わっていた。
全力で駆け抜けて、庭の芝生に倒れこむ。
「……っ、ぅ…ぁ……っ」
Tシャツの胸元をつかんで、のたうち回る。
必死に声を殺して、耐えた。
嫌だ嫌だ嫌だ……っ。
心が悲鳴を上げる。
それでも坊の願いは絶対だった。
昨日のやり取りが蘇る。
外の空気を吸いに車椅子で坊を連れ出した際、不意におまえは生きろと言われて、愕然とした。
『な……んで……?』
『生きてりゃ、よかったって思えることもある』
坊の瞳は揺らがない。
その瞳をただ見つめ返すことしかできなかった。
坊のいない世界に……?
独りで生き続けろって、そう言うの……?
初夏の緑に包まれた世界が突如、色を失った気がした。
思わずよろけて、ペタン……と芝の上に座り込む。
『……ったく、手ぇ貸せ』
オレも座ると言われて、慌ててその身体を支えた。
肌が触れる。
それだけで、たまらなくなる。
この温もりを失って、その先の闇を独り生きなければならないのかと思ったら、いっそ今この場ですべてを終わらせてしまいたい衝動にかられた。
『いい天気だな……』
眩しそうに木の葉の間からのぞく太陽を見つめながら、坊がつぶやいた。
そのあまりにも安らかな口調に、怒りが込み上げた。
『ひどい……っ』
涙腺が壊れたように、涙が頬を流れ落ちた。
『嫌です……っ、絶対に、嫌……っ』
いくら坊の願いでも、これだけは譲れない。
もしもの時は、あなたといく。
キッと睨みつけると、
『んな顔も、できんだな』
唇の端でおかしそうに、坊が笑った。
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