アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
祈り(雪夜side)
-
『ったく、泣き過ぎなんだよ、……てめぇは』
そっと唇を噛み締めた。
『……けどまぁ、そうやって泣かれんのも悪かねぇ』
坊の言葉で、傷は瞬く間に埋められてしまう。
『ならよ、オレが意識を失ってる間も繰り返し呼べ』
『……っ、……煌?』
『……おう』
『煌……っ』
行かないでと駄々をこねる代わりに、しがみついて繰り返し名を呼んだ。
温かく押し寄せてくる愛しさの波に飲み込まれ、溺れてしまいそうだ。
不規則な鼓動も、苦し気な呼吸も。
斜に構えたハスキーな低い声の何一つ、ほんのわずかさえ、忘れたくなかった。
坊の存在ごと己に刻み込むかのように、時を惜しんだ。
悲しくて、切なくて、この上なく幸せな時間が流れた。
きっと今頃、坊は士郎に自分が亡き後の想いを託しているのだろう。
起き上がって、グイッと乱暴に頬を拭った。
手の平についた土の香りを、胸の奥深くに吸い込み、天を仰げば、皮肉なほど眩い太陽が輝いていた。
時は巡る。
崩れ落ちそうなほどつらいことがあっても、孤独に打ちひしがれている時でさえ。
立つしかない。
さすがはオレの惚れた男だ。
いつかそう言ってもらえるように。
前を向く。
どんな答えが待っているとしても。
等しくあなたを愛してる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
184 / 297