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夏休みと小旅行③
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(葵語り)
夏休み前半の補講、追試ともクリアし晴れて自由の身になった。
そして、俺は熊谷先生の車に乗っている。
後ろには何故か山本先輩もいた。
二人っきりじゃなかったことに、良かったような悪かったような複雑な気持ちになる。
ってか、俺が熊谷先生を意識しているみたいじゃん。
あの人が俺を好きだとか言うから、変に気になっている。
平常心、平常心。
俺は猪俣先生が好きだからと自分に言い聞かせるが、いまいち心には響かなかった。
山本先輩は追試をクリアしたから、熊谷先生にどっか連れてけと自分からお願いしたらしい。
この人は受験生じゃないのか?と思っていると、俺の心を読んだかのように『息抜きをしないとやっていけないんだよ』と山本先輩は言った。
「今日はね、色々考えたんだけど俺の友達がバーベキューやるらしいんで、そこに行きまーす。魚もつかみ取りできたり、川でも遊べるから1日遊びましょう。」
小学生の遠足みたいに、熊谷先生が発表した。
「遠足みたいだな。」
山本先輩の呟きに俺も頷いて賛同する。
「お前ら楽しみだろ?だけど、俺しか運転できる人がいないから、酒が飲めないんだよね。それが辛い。葵は後で俺を慰める役な。」
「遠慮しときます。」
「うわ、即答かよ。山本、飲めない辛さが分かるか? おこちゃまには分かるまい。」
「分かってもねえ。未成年に飲ませたことで熊谷先生がクビになりますよ。」
車内が笑いに包まれた。楽しいな。
こういう解放される感覚は久しぶりだ。
バーベキュー場には2時間ぐらいで着いた。
会場へは熊谷先生の友達が先着していて、準備をしてくれている。
挨拶をしてから、お手伝いする。
熊谷先生の大学時代の友達で、中には小さな赤ちゃんを連れている人もいた。
「祐樹ってどんな先生なの?」
熊谷先生と色々悪いことしたらしい、野田さんが聞いてきた。
だいたい想像つくけど…。
「あー、生徒指導の先生で…、それと……ええと……」
どんな先生かなんて、よく分からない。
思い出そうとすると、あの日のキスが頭に浮かんで言葉に詰まった。
何で今そんなこと思い出してるんだよ。
「生徒指導なんてやってんの?祐樹が?ありえねー。祐樹こそ指導されるべきだろ。」
「あり得なくないって。俺はしっかりやってるよ。ねえ、伊藤君。」
「ええ……まあ。たぶん。」
なんか、俺……今日は変だ。
「祐樹は結婚しないの?」
野田さんの後ろにいた……たしか田山さんって言ってた人が、ひょっこり顔を出した。
「相手がいないもん。できないだろう。」
「彼女は?いなかったっけ?結構長かったよな。ええと、友里ちゃん、そう友里ちゃん。」
「いつの話だよ。去年別れた。」
熊谷先生の彼女の話が出ると、さらに俺の心臓がドキドキする。
やっぱりおかしい。
「じゃあさ、生徒とかどう?女子高生、可愛いよなー。より取り見取りじゃん。」
野田さんが羨ましそうに言った。
「生徒に手を出すなんて、犯罪だから。絶対やんねーよ。」
偉そうに語ってるけど、あなたこそ犯罪まがいのことを俺にしてますから。
ちらっと熊谷先生を見たら、にたーっと笑ってきた。
この人は全然悪びれてない。
何だかここにいると疲れるので、少し落ち着こうと思い俺はその場を離れた。
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