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さようなら、こんにちは③
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(葵語り)
文化祭の日になった。
相変わらず猪俣先生からメールの返事がないままで、今日は絶対に捕まえて話をすることを決意した。
俺のクラスは何の模擬店だったか……確かシアターやるって言ってたかな。
サッカー部で飲み物を売るので、俺はそっちにかかりっきりになる。
文化祭の雰囲気は好きだ。
美味しいものの匂い、笑い声、すべての色がまざりあってやさしい空気を作っている。
猪俣先生を探すことに囚われなければ俺も楽しめるのに、なんだか損した気分だ。
「こんにちは。ジュースくださいな。」
熊谷先生が来た。
白いシャツに薄手のカーディガンを羽織っている。
「葵のジャージ姿もなかなかいいね。」
「それほどでも。ジュース、どうぞ。」
『ありがと』と言って、ポンポンと俺の頭を撫でながら先生は去っていった。
あの手にもっと触れたいな。
一瞬そんな考えが頭をよぎったが、今は猪俣先生を探すことに専念しよう。
熊谷先生のことを考えるのは、その後でも遅くない。
そうこうしてるうちに、見慣れた姿を見つけた。
猪俣先生だ。
俺はハルトに断りを入れて、少し前まで愛しくてたまらなかった後ろ姿を追った。
「先生っ、先生っ、猪俣先生。」
周囲の騒めきに声が掻き消されて、何度呼んでも振り返ってくれない。
俺はぐいっと猪俣先生の手を引っ張った。
懐かしい手の感触が蘇る。
「葵………」
驚いた顔で、猪俣先生が立ち止まった。
やっとつかまえた。面倒くさい手のかかる大人だ。
「メール、送った、の、に、返事が、なくて。」
息切れと緊張でうまくしゃべれない。
落ちついて、落ちついて、深呼吸をする。
「どこかで話できませんか?」
猪俣先生の返事まで少しの間があり、その時間も永遠に感じられるくらい長かった。
「わかった。じゃあ、旧校舎へ行こうか。
あそこなら誰もいないし、ゆっくり話ができる。」
俺は、猪俣先生に連れられて、使っていない旧校舎の教室に入った。
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