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熊谷先生の憂鬱11
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(熊谷先生語り
葵を駅まで迎えに行った。
夕方の駅は人でごった返しており、ざわざわしていて落ち着きがない。
喧騒から抜け出すように、葵は俺を見つけると笑顔で走ってきた。
久しぶりにみる笑顔だった。
よかった。元気そうなことに安心し、胸を撫で下ろした。
2人は肩が触れるか触れないかの距離を並んで歩く。
歩幅を揃えるようにゆっくりと歩を進めた。
葵は終始うつむき加減だ。
ちらっと見える葵のうなじが街灯の光に照らされ一層白く見えた。
夜の闇がすぐそこまで迫っていた。
「どうぞ、入って。」
誰かを家に入れるのに、こんなに緊張したことはないくらい手汗を掻いていた。
学生の頃は部屋に入れたら、あとはヤッたもん勝ちみたいなところがあって、入れるのに必死だったなと、真逆な状況に内心少し笑った。
今は、何もしないから話だけだから、と何度も説明したいくらい誠実な気持ちだ。
玄関の扉を閉めると、いきなり葵が抱きついてきた。
あらあら。
こんなことされると俺も……非常に困る。
「どうした?」
腕の力が結構強くて苦しい。
男の子だし力はある。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
泣きながら、謝っていた。
小さく何度も呪文のように繰り返している。
「昨日、話しかけてくれたのに………うぐっ…ごめんなさい。」
あっ、それを謝りたかったのか。
神様、こんなに可愛い恋人を俺に与えてくれてありがとうと思いながら、軽く抱き返した。
「本当はすごくうれしかったのに。そっけなくして………ごめんなさい」
「うんうん。わかったから、もう泣かない。」
ぽんぽんと軽く背中を叩いた。
葵はまだずびずび泣いている。
「座って話そうか。中に入って。」
葵がこくん、と頷いた。
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