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薄暗い誘惑
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ポップコーンひとつにジュースが二つ、席は真ん中後ろのほう。左にハナクソ、右に俺。赤い座席に座って周りを見渡せば、オタクっぽい奴らがチラホラ。…俺たちってもしかして、ちょっと浮いてる?
そりゃそうか。そうだよな、ハナクソなんて特にリア充臭を醸し出してるわけだし。でも、ハナクソは周りのことなどこれっぽっちも気にしてないような顔で座席に座った。そして俺をみて「座んね?」と聞いてくる。いや、座ります。座りますけど。
なんで、わざわざお前がこの映画を選んできたのか。俺はイマイチ理解できてない。ハナクソはジャンプは立ち読みするけど、単行本は特に買わないタイプの人間だ。だから俺がゲームに小遣いを費やしてんのもきっと分かってくんねーもんだとばかり思っていた。…でも、よくよく考えてみれば、だ。ハナクソって、今まで一回も俺の趣味について首を突っ込んできたことはないんだった。
俺も座席に腰掛ける。ハナクソがスマホの電源を切ってるのを見て、俺もアイフォンの電源をオフにした。丁度、館内が暗くなる。ハナクソの顔もぼんやりとしか見えない。映画前のクソ長いCMをぼんやり眺めながら、「なぁ」と声をかけると、「んー?」と返ってきた。ハナクソらしくないっつーか。いや、まあ、映画館だし。静かにしなきゃなんないからかも知れないけど。いつもより柔らかい、低めのトーンで返ってきた返事にビビった。っていうか、どきっとした。な、なにがどきっとした、だよ、俺ってまじでホモなの?男の、低めの声にトキめいてどーすんだよ。
「なんでこれ、選んでくれたわけ」
ただ純粋に疑問に思ってたことを口に出すと、ハナクソは俺の抱えてたポップコーンに手を伸ばしてきた。すこし、ハナクソの取りやすい位置にポップコーンを移動させる。
「見たいって言ってたから」
「お前興味ねーだろ」
「お前だって他のタイトル興味ねーだろ。いいんだよ、見てみたかったし」
「だから、なんで?」
「………………、き、になる、じゃん。」
「あ?」
「お前がどんなもんにハマってんのか、気になるし。俺、ゲームとかあんまやんねーから。いい機会かなって思ったんだけど」
だからあざといと言われるのではないでしょうか。とく、とく、とく、と、心臓の音、こんな静かな場所で、こんな近くで、……聞こえねぇかな。
あーーーほらもう、ほんと嫌だ。こんなことで、嬉しくなるからやっぱりおかしい。こんなハナクソ一人に、こんな喜ばされてさ。バカみてぇ、…。
「あっ、なんでポップコーンそっちに持ってくの、食えねぇじゃん」
ハナクソの取りやすいように、左の太ももの上に置いていたポップコーン。「邪魔だから」つって、右側に除けると講義された。ついでにハナクソの右手が伸びてくる。それを左手でつかんで、そのまま、俺の太ももの上に置いた。
暗いからいいじゃん、これくらい。顔だって見えにくいんだし、いいじゃん。……はずいな。敢えてハナクソの方は見ないでおくことにする。その代わり、繋いだ手に力を込めた。
「…………。始まるな」
ハナクソも、さすがのリア充スキルを持っている。察したのかなんなのか、俺がハナクソの手を握ってることに触れてこない。
硬いな、手。骨ばってて、俺よりは小さくても男の手だ。手のひら薄いな。は、はじめて、握ったんじゃねーの。
おかしい、キスもした、もっとアレなことだって、した。のに、なんで、手ぇ握ってるだけで、緊張すんの俺。
手汗かいたらどうしよう。それでも、ひんやりしてるハナクソの手を離す考えにはならなかった。
……やっぱりちょっと。顔見てやろう。そんな気持ちでチラッと目線だけを左に。あーあ。
あーあ。もう、俺、なんで顔見てぇなんて思っちゃったわけ。
薄暗くても、ハナクソの頬が赤いこと。ちょうど始まった映画の画面の明るさでわかってしまった。
意地悪してぇな。指先が。つつつ、とくすぐるようにハナクソの手の甲をなぞると、やっぱりくすぐったいのか、ぎゅっと握り返された。心臓持たないんだけど。…あー。せっかくの映画、集中できっかな。
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