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我慢すんのは半年間だけ
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おかしい、いや、おかしいこともないか。どっく、どっく、と心臓が高鳴る。静かな部屋、心臓の音、困ったな、顔がめちゃくちゃ熱い。
俺の言葉に驚いた顔をしたワカメは、ごくり、と一度唾をのんだ。喉仏が上下するのを見逃さなかった俺は、ぎゅ、と目を瞑る。
ワカメの息がかかる、近い、ふわり、と同じ洗剤の匂いが香って、ちゅ、と、唇が。ワカメのバカの唇が、瞼に。
瞼に?
「なに、してんの」
思わず目を開けると、そこにはベッドにひれ伏してるワカメがいた。え?キスしたいっていったのお前じゃん?もじゃもじゃの髪からちらりと見える耳は、真っ赤で、いや、え?赤すぎじゃね?
「…やっぱむりだわ」
「はあ?んだそれ、普通に傷つくんだけど」
「無理。……それ以上が、したくなる」
「それ以上って…え!…え?!は?!お前、ま、さか、」
「うっせーな、悪ィかよ!仕方ねぇだろ…くっそ!泣きたいわ俺だって、なんでお前なんかに!」
「…お前、ほんとに俺のこと好き、だったんだな」
「あ??!今更だろバカじゃねーの!シネば?!」
バッと顔を上げたワカメの顔は真っ赤で、多分俺よりずっと真っ赤で、なんか、必死な感じに笑えた。そっか、ふーん、そっか。変に誤解するとこだったわ、こいつ、俺が好きなんだよな、間違ってねーよな。ふぅん…そっかそっか。んだよ、可愛いじゃねーか。ちょっとだけ。
ワカメの髪に手を伸ばす。びくっと大げさに跳ねる肩、なにこの面白い生き物。髪は、すげー柔らかくって、見た目と大違い。しかしもさもさ鬱陶しいなぁ、なんだよこの前髪、なっが。
「触んなハナクソ、しばき倒すぞ」
「お前髪切れば?」
「なんで。嫌だよクソめんどくせぇ。」
「伸びっぱなしでうぜーんだよ!せっかくツラは良いのに台無しだろ!」
「…お前、さぁ。…まじでウゼーから」
ばしっと手を払われた。「面はいいって思ってたのかよ」と、小さな声で言われて、はぁ、とため息をついてしまった。バカも大バカだこいつ。
並愛高校は、イケメンの巣窟だと思う。つーか、そう言われてる。俺はまあ、別にイケメンってわけじゃねーけど、こいつは別だ。二年にいる、並愛の王子様にも引けを取らないと思う、髪切ったら。並愛の王子様こと、木ノ下先輩はそれはそれは美麗だ。ぼーっとしてたけど、恋くんに「俺の幼馴染なんだよなー」っていいながら紹介されたときはたまげた。どえらいイケメンだったから。無駄なパーツなさすぎて焦った。作り物みたいな顔だな、と思って、でも、そんときにこいつの顔がぱっと浮かんだんだよなぁ。
(お前も負けてねーよ、なーんて。言ってやんねーけど)
実際。こいつは根暗だ。
あんまり学校で喋ってるとこをみたことがない。友達も多くない。クラスでよく喋ってんのは、古賀っちと、矢島ぐらい。古賀っちもチビだけど顔は整ってるほうだし、矢島に関しては変人だけどイケメンとか言われて女子人気が高い。あとは俺と喧嘩するぐらい。協調性がないっていうか、スカシ決め込んでやがる。
でも、影で女子人気がめちゃくちゃ高いんだよ、お前。
クールだのなんだのって言われてさ、どこがクールなんだよ、男の俺相手に顔真っ赤にするような、…そんな恥ずかしいやつなんだぞ?
近寄り難いとかいわれてっけど、喋ってみりゃ意外と普通だ。
女子がそれに気づいたら、こいつの人気爆発すんのかな。それこそ木ノ下先輩みたいに。そんなん、ムカつくよなぁ。うん、ムカつくわ。ツラもスタイルも完璧とか、あーうざい!ウザい!
「やっぱ髪切んな。ムカつくから」
「切るつもりねーよ初めっから!なんでムカつくとか言われなきゃなんねーの?死ねば?」
「お前がイケメンだからだろ!お前が死ねクソ!前髪眼球にささって死ね!」
「お前俺を殺したいの?お前こそその黒子広がって死ねば?!」
「どんな死に方?!」
結局喧嘩ばっかりなんだけど、ま、いっか。ちょうど携帯が光って、お母さんが帰ってきたメールを送ってきた。それを確認して、携帯をポケットの中につっこむ。
「帰ってきたらしいから帰るわ。……あー、なんだ、ありがとな」
「礼とかキモイからヤメロ。鳥肌とまんねーわ。…で、帰んの?」
「帰るよ、葵の風呂いれねーと。」
「ふぅん、じゃあちょっとこっちきて」
よいしょ、と体を起こしたワカメが、ぽんぽんとベッドを叩いた。ベッドに乗れってこと、だよな。一旦立ち上がって、ワカメの隣に腰掛ける。男の二人がベッドの上で向かい合ってなにやってんだ?
ていうかこいつ、常々おもってたけどめちゃくちゃデカイな。ワカメはぼりぼりと頭を掻き毟って、こっちを見ない。
「……今日で、ちょうど、半年、だな。」
相変わらず目は合わないけど、それよりもこいつの口からでてきた言葉に度肝抜いた。え、なに?半年?え?そんなこと覚えてたの、こいつ、チラッと部屋のカレンダーをみると、今日は二十日。黒いマジックペンでバツ印がつけられていた。気づかなかった。バツ印って、っていうか、え、てか、お前、そんな可愛いことしてたの…?つーか覚えてたの、かよ…。
「そ、だな。」
それしか反応できねーんだけど?!なんだよ、それ、なんだそれ!はぁ?!さっきまで、本当に付き合ってんのかな?とか言ってた俺がバカみたいじゃねーの!こいつ、思ってたより俺のこと、……って、ほんと今更だ。
デカイ手が伸びてきて、俺の肩を掴む。そしてそのまま体を引き寄せられて、簡単にワカメの胸の中に。ぎゅう、と抱きしめられる。力強……っ!ってか、ワカメの心臓の音、めっちゃ速い。俺も顔が熱い、手に変な汗かいてきた。
「りょ、…ぅ、すけ、って、呼ぶわ。…二人のときは」
俺の首筋に顔を埋めたワカメの吐息がくすぐったい。なれないこと、してんじゃねーよ。お前、名前呼ぶことに半年もかかってちゃこの先どうすんの…?
あーくそ、このヘタレ!っていいたいけど、その、俺も思ってたより余裕ない、かも。
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