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18歳以上ですか?
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傷つけたくないけどしばきたい
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18禁、という布が掛かっているその奥に、16歳の俺が入っていいはずがない。確かにコートを着てりゃ、この下に着ているのが制服だとバレないかもしれない。だけど、おい、どう言うつもりだ、ハナクソ。18禁コーナーの入り口で、くいっと顎でその先を指すハナクソ。おい、なんだシャクレこら。なんのつもりだコラ。殺すぞテメェ。
「行け、ワカメ。」
「ざっけんなシネ。お前が借りたいっつったんだろボケカスアホうんこ!お前が行け!」
「ばっか!お前バカ?脳みそ機能してる?俺みてぇな高校生まるだしのやつが入ったら3秒でバレるわ、お前しか無理だよ分かれよ」
「んじゃもういいじゃん!!こんなことしなくていいじゃん!帰ろうぜ!?な??!」
ぐぐぐ、と俺はハナクソの腕を出口の方へと引っ張る。それに対抗するかのように、ハナクソは18禁コーナーの方へ俺の腕を引っ張ってきた。なんだこの人体綱引き、つーかお前チビのくせに力強ェーな!
「いってェな!離せよハナクソ!」
「お前が先に離せよチンゲ!」
「チッ!拉致あかねーだろバカ!わかった、んじゃいっせーのーで、で離せ。」
「おー、そうしようぜ!いくぞ、いっせーのーで!」
「……」
「………」
「「離せよ!!!」」
分かっていたことだけど、お互い素直に手を離したりするわけがない。引き続きぐぐぐと互いの腕を引っ張りあっていると、店員さんが不審な目でこっちを見ている気がしてきた。たしかに18禁コーナーの前でお互いの腕を引っ張りあってる男ふたりがいたら怪しい。怪しいにちがいない。
「…ったくよォ!まじでお前はくそだ!今日からクソだということを肝に銘じながら生きろ。」
お互い勢いよくお互いの腕を引っ張っているのだから、どちらかがチカラを緩めるとそりゃ片方がバランスを崩してよろける。ハナクソなんてチビでガリ骨の糞だから、その反動はでかいだろう。ザマァミロ。パッ、とハナクソの腕を離すと案の定、「わ、っ」と焦りの声を漏らしつつ後ろに倒れそうになってる。ぷぷっダッセー。
「さ、んきゅ…。」
……。俺は全くどうかしている!!
ツタヤで尻餅つくダサい姿を見てやろうと手を離したはずなのに、咄嗟にハナクソの腰を支えてた。バッッッカじゃねぇーの!!なにやってんの!ほっときゃよかったのに、ああ、ああ、ああ!!
「あの。おい、ワカメ。もう大丈夫なんだけど…」
ちょっと困ったような顔をしてそんなこと言ってくんじゃねーよ!カス!やっぱこいつめっちゃくちゃムカつく!ビルの最上階から風船つけて落としてやりたい!!
「テメェが危なっかしいからだろ!ボケ!今離そうとしてたとこだよ!」
「あん?んだよコラ、セクハラかと思ったじゃねーかよこの海藻お化けが!」
「暴言のネーミングセンスどうにかしろよ!!」
「お前の言う『ハナクソ』よか百倍マシだわ!あーもう!んなこと言ってる場合じゃないんだって…!」
「だーかーら、一人では絶対入らねーぞ俺は…!だいたい!三次元のAVなんか見れっかよ!」
つい、ぽろっと本音が出てしまった。しまったと思った時にはもう遅い、ハナクソが目を丸くしている。あ、しくじった。まさにその言葉が脳裏を埋め尽くす。ハナクソはフリーズしたのかというぐらいピクリとも動かず、三秒、四秒、五秒と時間が経っていく。何か言い訳をしなければ、と思って頭を掻き毟るものの、なにもでてこない。
「あー、…その、」
くそ、歯切れが悪い。
ぱちくり、と一度だけ瞬きをしたハナクソは、何も言わずに俺の言葉を待っているようだ。
違う。違うんだよ。三次元っつっても、リアルなそれを見たことがないっていうか、なんか、見ようと思えないっていうか。だから今までアニメのエロで抜いてきたし、脳内の妄想で抜いてきたし、ああ!もう!だけど!違うんだって!なんつーのかな、うまく、うまく言えねぇんだけど、この気持ち…!
そりゃそんな顔にもなるよな、ハナクソのこと抱きしめてみたり、その、き、キスとか、付き合ってからまだ一回もできてないねぇけど、したいって告げてみたり、したのに、「三次元のAVなんか見れっかよ」なんて、まるで今もなお三次元に興味はないです。って言ってるようなもんじゃねぇか…!あーくそ、しくじった、ちがうんだって、そんな顔すんじゃねぇよハナクソ、ボケ、違うって、なんつったらこいつを納得させられんだよ、だから、あー!だから…!
「お前しか、無理…っていうの?お前ならいける。いや、なんだ?お前がいい?…わかんねーけど、三次元なら、他は無理ってことだよ!!」
我ながら言葉が上手くまとまらねぇ。なんかクソ恥ずかしいこと言った気もするけど、まあいい、ただでさえ毎日喧嘩してんだ、こんなことで大げんかなんてシャレになんねぇ。ハナクソはくるり、と俺に背を向けて小さな声でつぶやいた。
「……ちょっとお前さ、黙って」
ハナクソのうなじが紅色に染まって行く。あ、やっぱり俺、めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ったかもしれない。
だってどうすりゃいいかわかんなかったんだよ、仕方ねぇだろ。
俺もハナクソも、すげぇよく、喧嘩をする。お互い分かり切っているのは、お互いの腹立つとこと嫌いなとこと返ってくるだろう暴言と、お互いの『地雷』。やばかった。ハナクソの地雷を踏みつけたらクソめんどくさい。拗ねるし勝手に傷つくし、しかもそれが顔に出やがらないから困る。どうせ家で一人、凹んだりないたりするんだろ、ウザいしキモいしムカつくから俺はこいつの地雷だけは踏まないとガキの頃から誓ってんだ。
ハナクソのメンタルは、強そうに見えてそうでもない。
俺がこいつの地雷を避けて喧嘩するからか、こいつも俺の地雷には踏み込んでこない。
無意識に一線をわきまえていた喧嘩。そんな口喧嘩は遊びも遊びだから、どうでもいい。
さっきのクソ恥ずかしいフォローがなけりゃ、ハナクソはきっと今頃「ふぅんあっそ、ガキ」とかなんとかいって、その場を凌いでは後で悲しんだだろう。あー危なかった。フォローもなにも、本音なんだけど。クッソ、俺も恥ずかしくなってしたじゃねーかよ。めんどくせー性格してるハナクソが悪い!っつーか、傷つけたくねぇと思ってる俺が、めちゃくちゃ気持ち悪い!!
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