アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
無自覚で罪な男
-
「松ー。英語の辞書貸してー」
「お前英語の時間になる度に辞書借りにくるよな、無くしたの?」
「ごめんって、半年前から見当たらねーの。困った困った?」
「困ったって顔してねーじゃん!」
「だって松が貸してくれるんだもん」
「うーわー、引くわ?。山下それは引くわ?。お前落書きして返してくるんだもん、山下んとこのが授業先に進んでっから辞書開く度に笑えて死ぬんだけど?」
山下とは、あの日以降も仲がいい。というか、あの日の山下がどうかしていたとしか思えないぐらい普通の態度だ。俺がそれを望んだのもあるし、山下の気の迷いだったのかもしれない。
「まっ、なんにせよさんきゅー。次の落書きも楽しみにしてて」
ぽんっ、と俺の背中を叩いて爽やかに笑った山下は、俺から英語の辞書を奪って隣の教室に帰っていく。山下の書く落書きはマジで面白いから期待しとこー。とか、そんな事を考えていると、前方からデカイワカメがのそのそと歩いてきた。
右手にはPSP、気だるそうな顔、ボサボサなのかセットなのかよくわかんねー髪。俺の席を素通りして、自分の席に着席したワカメ。いつも通りの学校生活。…今朝のあれはなんだったんだよ、タチの悪い寝ぼけ方しやがって。 掠れた声が耳に残ったまま、俺は平常心を装っている。あの後思いっきり頭突きをかましてワカメから逃れたはいいものの、顔がまともに見れない。
時間割を確認すると、次は現国。なんだかふつうに授業を受ける気になれなくて、席を立つ。屋上は絶好のサボり場、…この時期は少し寒いけど。恋くんいるかなー。この間は宮内さんって人が煙草をふかしていた。隣のクラスの人気者の宮内のお兄さんらしいけど、全然似てない。似てるのは顔と涙ボクロだけ、宮内のアホ全開の性格とは反対で、すごく気だるそうな人だった。…恋くんともちがって、雰囲気が大人だったな。俺よりちっさくて細かったけど。
教室を出ようとワカメの隣をしれっとした顔で通り過ぎようとすると、あのデカイ手が俺の手首を掴んだ。こっちを見ないまま。視線はPSPのまま。
「どこ行くわけ、もう授業はじまるけど」
「ウンコ」
「俺も行く」
「はぁ?お前と連れションとか嫌なんだけど。」
「俺だっていやだよ。なんでお前と連れションしなきゃなんねーの!」
「言ってることがムチャクチャなんですけど!」
俺の手首を掴んだまま、ワカメはPSPを尻ポケットにつっこみながら立ち上がる。なんでお前のせいで授業受ける気になんねーのにお前が着いてくるんだよ!チッと一度舌打ち、そして何故か俺が手を引かれるように教室を出て行く。なんでだ、なんでいつもこうなる。こいつの身勝手に振り回されて、いつも俺が折れるんだよな。死ね、むかつく。お前のせいで大概人生狂ったんだぞ、俺は。男なんか意識するようになっちまってさ。…訂正、お前なんか意識するよになっちまってさ!
上履きの音がきゅ、きゅ、と廊下を鳴らす。教室は少しずつ離れていく。ワカメがなんの遠慮もせず大股を開いて歩くから、俺は必然的に小走りになる。ふざけんな、なんで俺が。なんで俺がいつもお前に合わしてやらなければならないんだ。振り払いたくても振り払えない、握られた手首。トイレは素通りして階段を登って行くワカメ。…なんだよ、俺がサボりって初めから分かってたんじゃねーか。ほんと、じゃあ尚更なんでついてきたんだ。チャイムの音が学校内に鳴り響く。屋上に近いこの階段では、それが余計に大きく聞こえる。ああ、もう!わけわかんねぇよ、付き合う前もわかんねーことばっかりだったけど、今の方がもっと理解不能。しかも胸が苦しくなるようなやつばっかり。…やっぱタチ悪いわ。
屋上の扉、ぎぃっと音を鳴らす筈の重い扉は開かれず、その変わりに俺の背中は鉄の扉とぴったりとくっついていた。背中が冷たい。なに、なになになに!もうわかんない、こいつが何をしようとしてるのか、俺をどうしたいのか。さっきから何…!つーか今朝から何なの…!でかい手のひらが俺の手首から離れていく、が、ワカメの手の平はそのまま少しずつ登ってきて、俺の両肩をがしっと掴んだ。そしてうなだれたワカメ。つむじがドアップで見えるんだけどこれなんのサービス?要らないんだけど。そして肩を強張らせる俺とは裏腹に、ワカメはハァ、と大きくため息をついた。
「…朝、俺、……お前になんか、言った?」
………やっぱり覚えてねーのかよ!このワカメ!ワカメ!ワカメ!!!ざっけんなクソ、お前のせいで俺はどれほど動揺してどれほど、どれほど、…ドキドキして、死ぬかと思ったと、思ってるんだ、よ、くそ、俺ばっかりこんなに振り回されて、カッコ悪ィ…。なんか泣けてくるほどに、いや、泣かないけど。泣かないけど……!!!キッ、とワカメをにらみつける。ワカメは俺の顔をみて、何故かぎょっとした顔をした。そのくせに俺の肩をしっかり掴んで離さない。こうやって逃げられないように追いやるの好きだねお前。ずるいよ、んなことしなくても逃げないのに。ちょっと俺よりでかいからって調子のってんじゃねーよ!むかつく、いつもやられっぱなしでもう嫌だ、俺ばっかり好きになるのはもうゴメンだ。ぐいっとワカメの胸ぐらを掴んで、形のいい唇をべろり。…きょとん顔、は?って顔。その顔の両頬を両手で挟んでもう一度、唇に舌を押し付けて、んちゅ、と音がするようなキスをする。俺とお前に一ミリの隙間もない、どーだ、気持ちいいだろクソバカ。いっつも俺がやられっぱなしだと思ってんじゃねーぞバーカバーカ。唇を離してもワカメの両頬を挟んでいるこの両手のひらは離さない。ははっ、だせー顔。
「熱烈な愛の告白をくれたよ、今朝のお前。」
「…っ、はあ?!適当なこと言ってんじゃねーよ!んなわけねぇだろ、つーか、お前…!キス、」
「なんだよ、キスぐらいで赤くなって。かわいーなァ、柳くん。」
「…あ?お前、まだ俺の名前も呼べねー癖になに調子こいてんだ?」
「なっ、はぁ???呼べるわボケが、耳の穴かっぽじってよーく聞いて、…ん、っ」
ワカメの両頬から手のひらを離した瞬間だった。俺の両肩を掴んでいたはずのでかいワカメの手が俺の手を握り締める。それはそのまま押さえつけられるわけでもなく、俺とワカメの胸と胸の間に。縮こまったようなこの体勢と、上から食われるようなキスが。
熱い舌が俺の唇をなぞる。俺がさっきしたことと全く同じ事、まぶたをぎゅ、と閉じると、今度は唇に触れていた唇が移動してきて、俺のまぶたに落ちてくる。そして額、鼻、頬。ちゅ、ちゅ、ちゅ、と階段を降りるようなキス、一回離れてバチっと目が合う。どちらともなく顔を近づけてもう一度唇を合わせた。キスに酔いしれる。両手は胸の前で握られたままだ。
しばらく唇をあわせて、息が苦しくなったら離れる。ということを繰り返す。何度も目が合って、見つめ合って、んで、キス。女の子みたいな可愛い顔じゃない、まるで獣みたい。また顔が近づいてくる、目を閉じようとすると、ワカメの唇は俺の唇を素通りして、首筋に。は、なん、は。思わず目を見開くけど、視界の中にワカメはいない。俺の首筋に鼻を寄せ、すりすりと擦り寄ってくる。なにしてんのこいつ、いつの間にかこの両手も解放されてるのに、なんで俺は抵抗できない。なんでなんでも『許しちゃう』ようになってしまったんだ…?!
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 72