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厄介男に無駄な釘を打つ子供
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ていうかフツー信じられるか?
あの古賀が。あのアホでドラムのことしか考えてなくて暇があればすぐビートを刻み出すような恥ずかしい男代表のあの古賀が。ハナクソをすき?悪い冗談だろ。
小学校の時、俺もハナクソも背の準備ではいつも一番前だった。周りは俺たちを見下ろしてくる巨人ばかり、その中でも一番でかかったのは古賀だ。ほんと物心ついたときにはもうドラムに触っていたらしい、あんまり古賀のことはよく知らない。というか覚えてない。俺の幼少から今までは大天使スーパーミラクルヴィーナスモモちゃんと、皮肉にもゴミクソスーパーウルトラミラクルハイパーハナクソで思い出が埋めつくされている。モモちゃんが癒しで俺の世界の全てだというなら、もちろん後者のハナクソは俺の青春に苛立ちと殺意を芽生えさせたカスだ。ついでに…そのカスに恋とやらも覚えさせられた。つくづくロクなことをしてくれない。あいつは。さっさとこの手にかけて葬式でアニソン歌ってやりたい。木魚叩きながらフルーツ☆ラブのオープニングを歌ってやりたい。
…じゃなくて。あいつのことじゃなくて。今は古賀のことだ。古賀はアホだ。ガキの頃はすげー身長が高くて、明るくて、なにより脚が速かった。小学校の時ってなぜか脚が速い奴がモテるじゃん。だから古賀も女子にすげーモテてた。気がする。あいつの人生のモテ期は多分そこだ。古賀はアホだから、ジャングルジムの頂点から転げ落ちて太ももの骨を折った。それ以来、あいつの身長は小学六年生のまま止まっている。俺もハナクソも成長期は遅い方だったから、中学二年生になる頃には、あんな巨人に見えてた古賀の身長を簡単に追い抜いた。まぁ、俺のほうが驚異的な成長期を迎えたけど。
前にも言ったが、俺の中学時代の友達というのはゲームの画面だけだった。…かろうじて、古賀が友達 だったかもしれない。は?ハナクソ?あいつは友達じゃねぇよ、友達だと思ったことは一度もない。ハナクソはハナクソ以外にはなり得ない。
俺の唯一の友達と言っても過言ではない古賀は、ハナクソの友達でもあった。俺たちが火花を散らして喧嘩してると必ず間に入ってきて「まあまあ、仲良くしろよ」と仲裁してくる。それは高校にあがっても変わらなかった。古賀と同じクラスでちょっとホッとしたのは内緒にしておこう。………いつから。いつからハナクソをそういう目で見てたんだろう、このチビ。どんな気持ちで俺とハナクソの関係を見ていたんだろう。考えれば考えるほど、思いあたる節が多々あった。そもそも、俺と古賀が友達というのがおかしい。相容れない存在のはずだ。人気者の古賀と根暗の俺じゃ。それでもするりと俺のなかに入ってきて、簡単に友情を築いてきた。
何度でもいう。古賀は俺の中では友達として確立している。
それでも。
「おいコラワカメ、テメェ何俺のカツ食ってんだよ!」
学食のカツ一切れごときでキャンキャンと騒ぐこいつは、こいつだけは譲れない。
席順は俺、隣にハナクソ、ハナクソの前に古賀。俺はハナクソのカレーの上に乗っていたカツを一切れ奪って食べた。べつにカツが食べたかったわけじゃないけど、べつに気を引きたかったわけじゃないけど、パッサパッサの安い味、そんなカツを噛みながらツンとそっぽを向く。
「聞いてんのか?!耳まで海水に脅かされたかこの野郎!」
「うっせぇ。これやるから黙ってろ」
「んぐっ!…うえ、トマト…」
左手に持ってたサンドイッチをハナクソの口に突っ込む。ハナクソは野菜が嫌いだ、とくにトマト。そんなこと俺が知らないはずがないだろ、弱みは全部把握してる。ははは、顔真っ青にしてるハナクソは面白いな?。ニヤニヤしながらハナクソを見てるとガッとスネを蹴られた。ハナクソにじゃない、古賀に。
「松可哀想ー。はい、これ飲めば?」
古賀は侮れない。自分の飲んでいた飲むヨーグルトをハナクソに差し出した。おい、まてまて、トマトと飲むヨーグルトの組み合わせのほうが可哀想だろ、なんだよそのデスマッチ。でもハナクソは一刻も早くトマトを口の中から除去したいらしい。震える手をのばし、古賀から飲むヨーグルトを受け取った。ハナクソがストローをくわえようと口を開けた瞬間を狙って、横からヨーグルトのパックを思い切り、潰す勢いで押す。ビューッとストローから飛びだした飲むヨーグルトは必然的にハナクソの顔面に噴射して、ハナクソの顔はびっちゃびちゃに濡れる。
ぽた、ぽた、とハナクソの鼻や口、顎から飲むヨーグルトがしたたり落ちる。ハナクソは顔を伏せているが、どんな顔をしてるのかだいたい想像できて面白い、あー面白い。
「………。ワカメ、俺が嫌いなものはこの世に三つある。一つ目はホラー全般。アレはいかん。何故なら心臓に悪いからだ。二つ目はお前の存在、そして三つ目は食べ物を粗末にする奴。お前何してくれてんだよ!!もったいねぇだろーが!」
「取り敢えず顔ふけば?みすぼらしい」
「お前のせいだろーがよ!!!」
マジギレしてるハナクソの顔は濡れてる。全然怖くない。ちなみに俺も食べ物を粗末にするやつは嫌いだ、でも、お前、アホ。それ飲んだら古賀と間接キッスというやつになるんじゃないですかね。そんなもん、古賀の気持ちを知ってる俺が平気な顔で見てられると思ってんのか?アホか?
「クッソ、これどーすんだよ、何で顔ふけばいいわけ。あーあーカレーにもかかってるし!まじウザイ!お前そんなに俺のこと嫌い?!」
「当たり前だろ!!この世の誰もがお前に優しいと思うなよ!」
「規模がでけーよイチイチ!…ティッシュもらってくる。」
そういってハナクソが席を立とうとしたら、古賀がハナクソを呼び止めた。ハナクソは濡れた顔をそのまま古賀にむける。
「柳やりすぎ。松超エロいことになってんね?AV出れるよ」
おい、何してるんだよ古賀。
おい、嘘だろ。古賀は自分のブレザーの袖でゴシゴシと松の顔を拭き始めた。ありえねぇ、飲むヨーグルトだぞ?ベタベタするし、乾くときっと酷い臭いがするアレだぞ?ハナクソもびっくりしたのか無言になってんじゃねーかよ、…なんだよ、なにそれ、なんだよお前。
本気でアレは宣戦布告だったわけ?
「ちょ、ちょっ、と!古賀ちゃん!汚れる汚れる!ブレザー…!」
「ん?いいよ、俺飲むヨーグルト好きだし」
「そういうことじゃなくて!あぁもう、バカばっかりだな!クリーニング代だすわ。ワカメが」
「ざっけんな何で俺が!」
「お前がこんなことしたからだろーが!」
「あー、いいから。んー、ヨーグルトのにおい取れないな、顔洗っておいでさ」
ハナクソに顔を近づけてすんすんと匂いを嗅ぐ古賀。近い、近いわ!
ムッとした顔をしたら、古賀に気づかれた。ニタリと笑った古賀はハナクソから顔を離し、「ほら早く、カレー冷めるぞ」と言って、ハナクソをこの場から遠ざける。ハナクソもアホだ。素直に頷きこの場を離れるなんて。アホか、アホじゃん、アホばっかりなのは俺の周りもだ!
ハナクソが食堂から出て行くのを見届けた古賀は、ふぅ、とひとつため息を漏らす。そして俺と向き合って、いつも通りのあの顔で笑った。
「柳ってやっぱガキだね」
「喧嘩売ってんのか古賀ー。…なんなのお前」
「さぁ。でもまぁ、お前らの邪魔はしないさー」
「……十分してるじゃねーかよ」
ハナクソの食べかけのサンドイッチを手にとる。食べようと口を開けたら俺の手を古賀が掴んでそれを阻止した。そして俺の手を掴んだまま、サンドイッチは古賀の口の中に。
「さっき間接キス邪魔されたから。仕返し。ご馳走さま!」
おい、語尾にハートついてんぞ。何が邪魔されたから、だよ。結局やってんじゃねーか。ジロリ、古賀を睨むと古賀は可笑しそうに笑った。なにがおかしいんだよ、おかしいのはあんなハナクソに心を奪われたお前の頭だよバカ。
墓穴。じゃあ俺も頭がおかしいわけだ。あんなハナクソ一人のためにどんだけ必死なんだよ、らしくねぇ。やっぱウザイ、ペースを乱されるのは何よりも嫌いだ。古賀にため息のお返し。俺のため息に混じった「今からマジな話をしますよ」の雰囲気を察知した古賀もじっと俺の目を見てきた。さすが。勘はいいな、古賀チャン。
「お前がハナクソを好きになろうが俺には関係ないけど、あいつはお前を選ばねーよ」
古賀の表情は崩れない。
「なんで?すげー自信だね」
ニコリ。余裕のある顔しやがって。ムカつくわ、ハナクソ以外にこんなに俺をイラつかせんのは兄貴と姉貴と古賀ぐらいだよ。そんぐらいしか喋る人いねーけど。
なんで?って?
俺だって別にあいつに好かれてる自信はない、いつも喧嘩ばっかり、敵意むき出しの目は相変わらず。口も悪いし、特別「すき」と言われたわけでもない。それでもひとつ、確信できることがある。
「俺が困るから。」
あいつは、うぜーけど、クソだけど、ムカつくけど、でも絶対俺が困ることだけはしない。昔からそうだ。俺はあいつを困らせる、何度も何度も。でもあいつは違う。俺の悪戯にいちいち反応するだけ、俺の我儘に振り回されてムキになってるだけ。
あいつのほうがずっとオトナだということは、俺が一番分かってる。周りに言われなくても、お前に言われなくても、だよ。古賀。
「あいつがお前のことを好きになったら、俺が困る。」
だから古賀、諦めてくれよ。
お前がどう頑張っても、何をしても、あいつはお前の手は取らない。
古賀の笑顔は崩れない。それ、ホンモノ?俺はハナクソとちがって、人の些細な変化はわからない。だから今までと変わらない表情をみせる古賀が、今何を考えてるのかもわからない。なぜなら俺は友達が少ないからだ。唯一の友達といってもいいような、お前の変化すら気づけないようなダメ人間だからだ。それでも、ハナクソはやれない。
「やっぱ自信あるんじゃん!うける!そんなマジな顔してる柳初めてみたわ!」
「なに笑ってんだよ、本気の話してんだぞ俺は!」
「…知ってるよ?俺にそうやって釘さして来るってことはさ、俺のことライバルって認めてくれてんの?」
なんでそうなる。コミュ力の高い人間の思考回路は俺にはよくわからない。は、という顔をしたら、古賀はまた可笑しそうに笑った。なんだ、どれが本当の笑顔だ。いや、どれも本当か、俺はそれしか見たこと無いんだから。それが本当だと思うしかないわけだ。今まで、ずっと作り笑いを向けられていたとしても。
「諦めるかどうかは俺が決める。だから柳は今まで通り、松と痴話喧嘩でもしてれば?」
恨むぜ、ハナクソ。お前がバカみたいに笑うからこうやって惚れられんだよ。くそ厄介な男に好かれやがって…!
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