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後ろ姿を見つめる
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タレ目が。
ちらっと俺を見る、タレ目が。うざい。むかつく。タレ目って好きじゃないんだよ、なんで好きじゃないんだっけ、そういえば。あ、ハナクソがタレ目だから好きじゃなかったんだった、こいつの目が、すげぇ嫌いだった。ガキの頃は女みてーにでっかい目で、成長するにつれて雰囲気と色気を纏うこの目が、非常にむかついたから。どんなタレ目の二次元キャラをみても、必ずこの目を思い出して胸糞悪くなって、うん、だから俺はモモちゃんとユズがすきで、イチゴやナシコは攻略する気も起きなかったんだった。このハナクソの顔は、むかつく。タレ目、高い鼻、薄い唇、そして、目に自然と視線がいってしまうような位置についてる、ホクロ。もう、ほんと大嫌いだった、なんで大嫌いだったのか、今となっては簡単な答えがでる。恋を、直感的に察していたんだろう。恋を、するんだろうな、と。この目に、この野郎に、俺は。
頑張らなくたって、だいたい分かるわ。お前もきっとそうだろ、俺の考えてることなんて分かるだろ、何年もの腐れ縁を経て、培ったもんだもんな。こういう関係になったのはつい最近だけど、それでも分かってしまうぐらい、俺とハナクソが過ごした時間は長い。……嫌いだな、やっぱり。この顔。目を開けていても、閉じていても、関係なく、強烈に瞼の裏に焼き付いて離れない。恋い焦がれるためにつくられたような、独特なその顔、どうやったって忘れられない、顔。病気だ、俺は。病だ、これは。はぁ、と一度ため息をつく。むかつく顔にキスがしたい。キス、好きなのかも、俺。
ぼんやり、ごちゃごちゃとモノを考えていると、タレ目がぱちぱちと二度、瞬きをした。
そしてギシリ、ベッドのスプリングが軋む音。ハナクソが擦り寄るように近づいてきて、薄い唇が、俺の頬に触れる。ちゅっ、と、恥ずかしい音が耳の中に響く。さっと離れたハナクソの顔は、さっきよりずっとずっとずっと赤い。完全に染まった、赤色だ。
「あれ?違った?」
「や、…違わないけど」
ほらみろ、やっぱりだいたい何を考えてんのか、分かってしまうんだ。髪をわざと伸ばす必要も、切る必要もない。結局、なにをしても、分かる。
「おはよーのちゅうか。そんなの求めるなんて可愛いとこあんね。」
「口にして」
「はい?」
「口がいい」
我儘ばっかり言って困らせる。ほら、ほら、またタレ目が俺を見つめて、そしてぶあっと赤くなっていくんだ、わかっててやってる俺、意地悪かも。
目を瞑って三秒待つ。ふわ、と俺と同じシャンプーの匂いが香って、あぐらをかいていた俺の膝にハナクソの手のひらの感触。寝起きで潤いのない唇が、むに。と押し付けられた。
「ほらよ!オハヨー!」
「雰囲気だいなし。クソが死ね」
「なんだとコラ、お前の我儘聞いてやったのになんつー口の利きかた、」
「はいはいオハヨー。」
「おいこら、恥ずかしくなってきたからって適当にあしらってんじゃねぇぞ!お前な、顔に出過ぎだから!恥ずかしいからヤメテ!」
「そんなの俺のセリフだから!!ったく、早く慣れねぇかな。」
「慣れねぇよ一生!」
どんな殺し文句だよクソが。
こういう関係になって、一緒に朝を迎えたのはこれで二度目。残念ながら一度目はあんまり覚えてない、眠さが俺の全てを奪っていった。でも確かにあの日、俺はハナクソの夢を見て、たまには素直になってやるかと、ギャーギャーやかましいハナクソに「好き」と言った。まあ、夢でよかった。恥ずかしいから二度と言わない。誓う。
「で、だ。お前の我儘、きいたんだから、数学教えて」
「あー…てめぇ一回で理解しないと殺すからな」
「物騒だな!?無理だよ、俺数学大っ嫌いなんだよ!お前より嫌い!」
「じゃあ好きじゃん」
「は?!う、自惚れんなアホか!死んで?まじ死んで?まじでキモいから死んで?」
「お前やっぱり激うざい!…ところでハナクソ」
「改まってなんだよキモいな」
「口開いたら暴言しか出ねぇのかてめぇは!数学、教えてやっから、………現国を。」
「…現国を?なに?」
「教えろ」
「教科書読めっていったろ」
「んなもんで点数取れたらてめぇに教えろって頼まねぇよ!俺の現国の点数の悪さ知ってんだろ!追試になったら、一緒に帰れねぇぞコラ!」
「お前が読解力に欠けるだけだろーが!…じゃあ、教えあいっこしよ。んで、追試回避。回避できたら、………デートしよ」
「…デート?!は?!なに口走ってんだお前恥ずかしいなコラ!」
「な、なんだよ!じゃあなんて言えばいいわけ?!」
「………デート?かな」
「お前アホだろ。約束な、お前追試になったら殺すから」
「てめぇも追試になったら殺すぞ。ビンタな」
「お前にビンタされたら吹っ飛ぶわ馬鹿野郎。待ってて、勉強道具全部取ってくる」
「うちでやんのか?待って、後で兄貴と姉貴帰ってくるから多分すげーうるさくなるぞ」
「うちも葵がいるから勉強には向いてねぇよ。……ファミレス行くか」
「…じゃあ、支度終わったら電話して。ロビー待ち合わせな」
「ん。あ、このスエット洗って返すからこのまま帰るな。」
ベッドから出たハナクソは、ぶかぶかでズレ落ちそうなスエットを上げながらそういった。別に洗わなくてもいいけど、そのまま置いて帰ればいいのに律儀なやつ。
「お前、着替え一式置いて帰れば。どうせまた泊まることあるだろ、つーかそのカッコ、目に毒」
「むっつりかテメーは。これだから童貞は困るわ」
「テメーも童貞だろーが!」
「…じゃあ、このスエット、俺の家置いとくから。次はお前がうちに来て。」
神様、これが青春でしょうか。このあざとい男に俺は殺される運命なのでしょうか。こくり。頷くしかないだろ。赤みの引いた顔で帰る支度をし始めるハナクソ。おい、スエットズレてる。しゃがんだら半ケツ、パンツ丸見え。なんだお前、ここ一応彼氏の家だってこと忘れてねぇか?
一歩部屋から出れば、恋人であることを隠さなくてはいけない。俺たちはオトコ同士だから。
別に外でいちゃつく趣味はねーからそれでいいけど。
「じゃ、後で。」
支度を終えて帰ろうとするハナクソに近づいて、ドアノブに手をかけるその手に、後ろから覆いかぶさるように手を重ねる。ハナクソが振り向く前に、そのまま手を腰に回す。なにをやってんだ俺は。なに、ちょっと名残惜しくなってんだ、もうむりなんだけど、俺が俺じゃなくなっていくのが、ほんと無理。
抱きしめる。すっぽりと収まる。わかってる、こいつは別に小さくない、女でもないから肉付きもない、骨ばった体は、抱きしめたとこで硬いし。でも、俺にとってはただのチビだし。俺の腕の中に収まるんだからそれでいい。ハナクソの髪に鼻を寄せる。すんっ、と一度匂いをかいだら、俺の家の匂いがした。
「…はい。じゃあな、後で。」
手を離して、部屋のドアを開けてやる。ハナクソは俺の方を振り向かないで「うん」とだけ言って部屋を出て行った。やっぱ、髪伸ばせば。赤い耳が玄関を出るまで、見送ってる俺もどうかしてるなぁ。
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