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松くんの苦悩
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高校生は忙しい。遊びに勉強にバイトに部活に、敵はテストと授業中に襲い来る眠気だけ。学校というものは、きっと勉強をするだけの場所じゃない。対人関係もコミュニケーション力も、恋も、友情も、吸収して上手く生きる術を学ぶ場所なんだと思ってきた。だから勉強もそこそこ、できてりゃいい。苦手なもんはやらなくても、他でカバーすりゃ問題ない。そんな思考でのらりくらり、それなりに卒なくやってきたけど、そんな考えもこの間まででおわり。このテストが終われば冬休み、追試がなければ、…デートするって約束した。
たったそれだけのためだけに、頑張った俺ってすげーーーー健気。…俺だけじゃない、ワカメだってそうだ。あいつもイヤなことはとことんやりたくない主義のくせに、頑張ってくれた。もとから頭はいいから、別に俺が教える必要なんてなかったんじゃないかと思ったけど。
ファミレスで、ミワコちゃんに鉢合わせたのはすげぇ焦った。内心どっきどき、手に汗をかいてることを隠すように、グラスに入ったカルピスを飲んだ。ことの行方をただ、傍観していた。さも、なにも知らないような顔で。
ミワコは、本気でワカメが好きだと言っていた。あの目を俺は知っている。古賀が俺を焦がれていた時の目と、似ていた。あの目は恋をしている人間独特の、酔いしれた目だった。だから、できるだけ、できるだけ、ワカメとミワコちゃんの接触は見たくなかった。俺、こんなにガキだっけ。自分でも自分の思考回路にドン引きなんだけど。
それでもワカメの態度は変わらなかった、非常に冷たい、あしらうようなあの態度。ミワコちゃんを可哀想に思う反面、俺はちょっと…安心した。きったねぇ人間だよ、ほんと。だって嬉しいじゃん、仕方ないじゃん、ワカメは、よそ見をしないでくれる。ワカメの恋をしている目は、俺のもんだ。俺のもんで、あって欲しい。これからもずっとだ。
気づけ、気づけ、気づけ、ミワコちゃんはお前に恋をしている。気づけよ。そんなことを念じるようにワカメをじっと見つめると、くそ鈍いワカメもようやく気がついたらしい。そしてその後に、ミワコちゃんに放った言葉が、頭を巡って離れない。
「大事な恋人、か…。ははっ、どーしようあのワカメ」
ただ、本当に自分を諦めて欲しくてその言葉を選んだのかもしれないけれど。大事、だって。ははは、あーあ、どうしようほんと、すげぇ嬉しくて、なんかもう、どうしよう?
こんなに嬉しくていいの?
こんなに、あいつにハマっていいの?
うざいし殴りたいし海に沈めたいし生意気だし我儘だしヘタレだし、いいとこより悪いとこの方がスラスラと言えてしまうような、そんな男に、俺は夢中らしい。
それこそ、大嫌いな数学を、あいつとのデートのためだけに頑張って勉強してしまえるぐらいは、大事、なんだろうな。あいつのこと。
きっっっっっっっも!!!!!!
頬が緩んでにやけが止まらない、きっも。何?俺、めっちゃくちゃキモイんだけど、うーわー引くわ、無理なんだけどこんな俺。なーにが「大事なんだろうな」だよ、アホか。別に大事じゃない、いや。うん、嘘だけど、まさかほんとに、恋人になってももっともっとすきになっていくなんて悪い冗談だ、この恋の底はどこにある、どこまで落ちれば満足するんだ、俺は…!
がしがしと頭を掻き毟る、怖いんだよもう、一人の人間に酔いしれていく、この感覚が。いつまでこんな気持ちでいられるんだ、ずっとか、ずっとなのか、心臓もたねぇし精神的に無理、恥ずかしいし、苦しいし、もうやだほんと、恋はこんなに甘酸っぱいものなのか。向いてねぇ…俺、絶対向いてないって…もーーーーー!やだ!!やだ!あーーー!!! くっそ!!!!好きだ!!!もう!!!好きだよ!!
「くっそ!!!!」
ぼふん、と、部屋のクッションを殴る。行き場のないこの気持ち、いっそ自転車に乗って坂道を下りながら叫びたい。やらないけど、そんなこと。完全に頭の中は恋愛一色、くそが、くっそ、なんでも上手くやってきたのに、なんでもそこそこ上手くいくようにやってきたのに、なんでこう、未知なる気持ちが幾つも生まれるんだよ!嫉妬?独占欲?そんなもんじゃねぇよバーーーカ!嫌だーー!嫌だーーー!バーーーカ!何、女に、想われてんの、バーーーカ!!それをなんで一刀両断してんの!バーーーカ!!!嬉しいじゃん!バーーーカ!俺、イヤな奴じゃん!バーーーカ!!!
トドメを刺すような言葉。俺のハートにとすっと刺さった。俺は、あの無関心無気力男の大事、なんだよなぁ。大事、なのかぁ。
むずむず、する。心臓付近、掻きむしりたい。明日も明後日もその先も、あいつはそんな気持ちで俺に恋をしてくれるのか、俺はそんなあいつにハマりにハマって溺れていくのか、じゃあ何がゴールなんだよ。どこがゴールなの、俺たちは。どうしたらこの、どうしようもないトキメキから逃れられんの!
テストを終えた後、手応えはあった。がんばっただけはある。ほぼ一夜漬けだけど。それでも今までで一番出来た気がする。それはワカメも同じだったらしく、いつも通りむっすりとした顔で、俺の目の前にずいっとピースサインを出してきた。顔とポーズが合ってねぇよ。その細長くて綺麗な指がなんだか無性に腹立って、掴んで、反対にのけぞるように力を込めた。痛かったのか即座に膝を蹴られた。今も痛い、あの野郎全然手加減ってもんを知らない。そんな様子をクラスのみんなは笑い話にしてきた。まさか俺とワカメが、エッチなことをしてしまうような仲だとも知らずに。
この、どうしようもない感情の行き場を教えてくれよ。内緒の恋、バレたらきっと「上手く生きれない」。
それでもいいか、べつに。そんな風に思ってしまう俺なんて、気持ち悪くて生理的に無理。いっそ嫌いなままだったらよかったんだ、そしたら……やだな。それは嫌だ。じゃあ俺はどうしたいんだろう、どうしたら、ほんとにどうしたら満足するんだ。足りない、足りない、足りない、抱き合っても、キスをしても、あんなに嬉しい言葉を貰っても、こんなに幸せなのに、ぜんっっっぜん、足りない。
「やっぱケツか…」
ぼろ、と口から無意識に零れた言葉。自分にゾッとする。抱かれる覚悟を決めたようなそんな言葉が俺の口から出てくるなんて無理。でもよく考えろ、俺。ケツだぞ、ケツ。絶対痛い、絶対苦しい、つーか、俺男なのに…そんな女の子みたいな、こと、すんの、…ちょっと、想像できない。
でも、この先もずっと、あいつと付き合っていくとしたら。いつか、そうなるのは自然の摂理ってやつだし、そうなったら、俺が多分、女の子役、だし…。あいつ童貞だし。いや、俺も童貞だけど。…ん?俺童貞?ちょっとまって、もしかして、もしか、して、
「俺って、このままだともしかして一生童貞…………?」
別れよう。
うん、そうしよう、別れよ。そしたら俺、童貞卒業もできるし、ケツ掘られる心配もないし、ついでにこんなむず痒い感情に頭を抱えることもねーし、得をすることしかないじゃん。そうだ、うん、別れよ。それがいい。
…できもしねーことを考えてんじゃねぇよ俺!ワカメと別れる?絶対嫌なんだけど。絶対、絶対、いやなんだけど!はぁ?じゃあどうすりゃいいの?一生童貞?一生童貞で生きりゃいいの?あのワカメほんとムカついてきた、今すぐ顔面めり込むぐらい殴りたい。俺の人生、青春、ぜんぶ賭けてるじゃん!あのワカメに!
…腹括れ、俺。
永遠なんてない。俺はリアリストだったはずだ。もしかしたら明日あいつが死ぬかもしれない、なにが起きるか分からない世界に生きてんだ。十年後、あいつの隣を歩いてんのは俺とは限らないし。そうだ、「一生」童貞なんじゃなくて、「もしかしたら一生」童貞なわけだ。いざとなれば俺があいつを押し倒して縛って動けねぇようにしてケツを頂けばいい。ポジティブにモノを考えないとやっていけない。浮かれてばっかいるけど、わかってるよ。男同士で好き合うって、どういうことなのか。この世界は、常識以外に冷たい。
……。いい。
何をされても、いい。
痛いのは嫌だ、けど、今の俺は、多分あいつに求められたら拒めない。あいつに甘いんだ、むかつくぐらい好きになっちゃったんだ。
いざ、そうなって。
俺のケツがあいつのチンコを拒まないように。自分でちょっと、やってみようかな…。
って、何考えてんの俺!
もう、無理!ほんと、無理!だんだん、おかしくなってる、よなぁ?
俺という人間を変えるのはやめてくれよ、柳清史。お前に恋をして、俺は、人を想う苦しさを知ってしまった。知らなくていいことを、よりによってお前に教わるなんてもう首吊って死にたい。
あの綺麗な手が、細い指が、俺の体を這う熱が。毎晩、毎晩、忘れられなくて。頭がおかしくなりそうだ。ずっと思い出してる。俺のナカに、あいつが入ってくる…?
男同士なのに?やっちゃうの?痛いの?気持ちいいの?
…し、たい、かも。
したいなぁ。
どろっどろになるんだろうな、何もかも忘れてさ。ほら、この間もそうだった。そうだ、喧嘩腰でさ、罵倒しあってさ、それでもきっと、あいつは余裕の無い顔で俺を求める。……。
「責任とれよ。くそワカメ…!」
まだ、名前も呼べやしないのに。こんなことばっか考えてる。まだ、手も繋いだこともないのに。あの日の気持ちよさが、忘れられない。こんなんやだ、こんな俺やだ、こんな俺でも、嫌いになんないで大事って言ってくれっかなぁ。
下着にそっと手をかける。
ごくり、一度つばをのんで、息を吐いた。
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