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文化祭開始-3-
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まさか、こんなに早く人が押し寄せてくると思わなくて驚いて体が固まる。
入り口の近くで体が固まったせいで、人の波が直撃して体がよろけて転びそうになった。
追い討ちをかけるように、人の波の大部分を占める女子生徒達が横に居る香坂に群がって、俺は女子生徒達に更に押されて転びそうになり何とか後ろに下がった。
香坂は、一瞬俺の手を掴もうとしたが女子生徒に群がられ手が届く事はなかった。
俺は何とか踏みとどまる事が出来て安堵しながら、困った顔をしてる香坂に声を掛けようとしたが女子生徒達に囲まれて近づくことが出来なくてこれ以上女子に押されたくない俺はその場を離れた。
狭いクラスを歩きながら、ホール担当の女子たちに視線を向ける。
ホール担当の女子たちは、いつの間にか入店してきた男子生徒にあざとく「いらっしゃいませ。ご主人様」と言いながら微笑んでいる。
俺は、女子の言葉を聞いてピタリと足が止まった。
「ご主人様?」
驚いて思わず呟いてしまい、辺りを見渡したが特に誰も気にしていないようだった。
俺は、きっと聞き間違いだと思いながら、恐る恐る女子達を見ると笑顔でご主人様とあざとく言いながら接客していた。
林には、執事服とメイド服を着てるからってご主人様と言いながら接客しろとは言われてないのに女子たちは盛り上がって勝手に言ってるようだった。
それを言ったら俺達も“お嬢様”とか言わなきゃいけなくなる流れじゃないかという思いを吐き出すように溜め息を吐いた。
俺には、香坂に群がる女子生徒や女子たちに群がる男子生徒の間に割って入って接客するなんて勇気はない。
それなのに、更に“お嬢様”とか言わなきゃならなくなってみろ。どんな拷問だ。
だけど、黙って立っているなんて事をしたら後で林に休憩無しされるだけじゃ絶対済まない。
想像してゾワッと悪寒が走り俺はキュッと唇を噛んで香坂を見ると、香坂は女子達から求められたのか“お嬢様”と呼んで接客していた。
絶対に言わなければいけない流れになってしまって顔が引きつる。俺は、どうしたらいいのか分からずに辺りを見ると、目が笑っていない笑顔で林が此方を見ていて逃げることは出来ないと悟った。
取り敢えず、俺は恥ずかしさを殺して新しく入ってきた男子生徒の前に満面の笑みで立った。
「お帰りなさいませ。旦那様。お席にご案内させて頂きます」
そう俺が言い頭を下げると、男子生徒は戸惑った表情を浮かべ此方を見た。当たり前だ、絶対に男がこの台詞を男に言われても嬉しくない。
俺は、引きつる口元を隠しながら空いている席に、男子生徒を座らせると俺の中で最上級の笑顔を浮かべながらメニューを差し出した。
「メニューはどうされますか?」
「えっ……じ、じゃあオレンジジュース」
「かしこまりました。旦那様」
戸惑う男子生徒に微笑みメニューを受け取って振り返ると逃げるようにカーテンで仕切られた準備室に飛び込んだ。
幸いな事に裏方には林も和久も居なかった。
二人が居ない事に安堵しながら、恥ずかしさとプライドがぐちゃぐちゃに混ざり合って叫び出したくて堪らない心をメニューを握りしめながらなんとか押さえこんだ。
俺は溜め息を吐きながら、オレンジジュースを頼んで受け取ると裏方から深呼吸をして足を踏み出した。
なるべく自然に微笑みながら男子生徒の元へ向かう。
向かう途中で、女子生徒達に群がられながらも香坂がテキパキと接客をこなしている姿が見えて改めて凄いなと感心した。
男子生徒の元へ向かう途中、俺を見つけたのか香坂はまた困ったように笑った。
俺は香坂に笑いかけると、恥ずかしさとプライドを殺し男子生徒の前にオレンジジュースを置いた。
「お待たせ致しました。オレンジジュースで御座います」
「あ……ありがとうございます」
「どうぞごゆっくり」
そう言い微笑んで、困っている男子生徒の元を離れる為に振り返ると一瞬香坂と目が合ったような気がした。
一瞬だったが香坂の目が笑っていないような気がして再度香坂を見るといつものキラキラな笑顔で女子生徒の接客をしていた。
気のせいだと思ったがどこか心に引っ掛かって俺は首を傾げ自分の仕事をするために歩き出した。
香坂や女子程でもないが自分なりに頑張って接客しているともう12時を過ぎていた。
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