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後輩達のお化け屋敷-2-
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俺は、作り笑いを顔に張り付けてまた抱きつかれないように一歩後ろに下がり視線を再度康汰に向けると、康汰は俺と会えた事が余程嬉しいのか満面の笑みを浮かべてそわそわと落ち着きがない。
今の康汰の姿は、まるで待てと命令された大型犬のようだ。そんな康汰の大型犬のような姿に少しだけ毒を抜かれていると、康汰がふにゃりと笑い口を開いた。
「でも……良かった。司さんがオレのクラスの前に居る時に丁度客引きしてて、お陰で司さんを呼び止める事が出来た」
心底嬉しそうに微笑む康汰の表情と仕草はいつもの通りで本当に大型犬みたいで思わず撫でたくなって腕を伸ばしかけた瞬間、また口の端から垂れている血液に視線が止まった。
康汰の口元の赤い赤い血から視線を逸らせない。
「司さんがオレの血で染まってて嬉しい」と夢の中で砂糖を煮詰めてどろどろに溶かしたシロップみたいな甘い声が耳元で聞こえてくる。
べたっと頬に付けられた血液の生暖かさと夢の中で嗅いだ濃い鉄の臭いが、いきなりフラッシュバックしてきた。
実際、嗅いでいない筈のむせ返るような血液の香りが鼻腔を刺激して、吐きそうになり左手で口をきつく押さえて瞼をキツく閉じた。
瞼を閉じる前に見た康汰はさっきまで浮かべていた笑顔を消すと代わりに眉を下げて心配そうな表情をしていた。
俺が瞼を閉じていると康汰が俺と距離を詰めてきたのか目の前に気配を感じる。今、目を開けるときっと一番見たくない赤が目に飛び込んでくるのが怖くてもっとキツく瞼を閉じた。
俺は、往来で吐かないように口を押さえながら「あれは夢だ。夢だ。大丈夫大丈夫」と何度も何度も言い聞かせて必死にふーふーと浅い呼吸をしながらゆっくり瞼を開けると、康汰が眉を下げて労るように此方を見つめながら、優しく頬に触れ汗を拭うと肩を支えながら窓際に誘導すると口を開いた。
「司さん大丈夫ですか? ……大丈夫じゃないですよね。顔色が真っ青ですし……。オレ保健室まで運びますから抱き上げても大丈夫ですか?」
「だいじょうっ……ごめっ……きもち……わるいだけだ。ちょっと、寄り掛かれば収まる。けど……俺……血がきもち……わるくて拭いてくれると……助かる」
「司さん血駄目なんですか? 気づかなくてすいません。今拭きます。……これで大丈夫ですか? 本当に気づかなくてすいません」
康汰は狼狽えながら、ごしごしと口元に付いている血液を衣装の袖で拭うと、眉を下げて涙を滲ませながら俺の背中を優しく擦ってくる。
俺は、口を押さえて前屈みになりながら冷や汗が頬を伝ってリノリウムの床にポタリと落ちていくのを見た後、康汰を見上げた。
余りにも心配そうに顔をくしゃっと歪めている康汰の瞳から涙が零れ落ちそうで、俺は康汰の肩を叩いて「もうだいじょうぶ」と言って出来るだけ口角を上げて笑ってみせると、ポタリと涙を零れさせた康汰に思い切り抱きつかれて肩にグリグリと額を押し付けられた。
「……ごめんなざい。オレ、まさか司さんがそんなに血が苦手だって知らずに……血糊付けたまま浮かれて会いに来て……すいません」
「なんで康汰が泣くんだよ。勝手に気分が悪くなったのは俺だし康汰は何にも悪くない。それに、康汰の情けない泣き顔見たら吐き気なんて収まったし大丈夫だから。な?」
「……司さん。あっ、すいません。オレまた抱きついてて。……本当に、本当に大丈夫ですか?」
俺が「本当の本当に大丈夫」と言うと安心した顔で俺から離れ綺麗な顔をくしゃっと歪ませて此方を見た。
その姿は、人懐こく泣き虫でよく狼狽える俺の可愛い後輩の姿で俺の中で夢の康汰が薄れて吐き気も少しだけ引いていった。
俺は、冷や汗を片手で拭って安心しきった康汰の人畜無害な表情に思わずクスッと一笑すると、きょとんとした表情で此方を見た康汰に「心配かけてごめん」と声を掛けようと思った瞬間、“後ろから伸びてきた手のひら”に目を覆われた。
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