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年も明けたのに、智也の事ばかり頭に入るのが嫌になって…残ったケーキを頬張った。
ストレスとか、機嫌が悪い時、母さんが甘いもの食えっていう意味が、なんとなくわかる…
甘くて…なんとなく俺の中を癒してくれる。
「ねえ、一口、いる?」
目の前で、顔をテーブルに埋めてるこの人を見るのが辛くて、母さんの真似をしてみた。
苦しんでるこの人を見て、辛いんじゃない…
苦しんでるこの人を見て、まるで自分を見ているみたいだから。
「堀川は、優しいよ」
「うん」
「あの時は…ごめんな。今更謝ってもって感じだけど、ごめん」
「いいよ、もう、そんなの…忘れよう」
フォークに、最後の一口を乗せて、橘先輩の前に突き刺した。
その、彼女さんのせいで自分が頑張って作ったこのケーキを嫌いになって欲しくない。
今なら中山が「自分自信は捨てるな」っていっつもいつも言う理由がわかったかもしれない。
智也に嫌われた自分まで、嫌いにはなってはいけない。
この人も、絶対に誰かを本当に愛して、愛される日がくるから。
俺は、先輩にこんな顔をさせられなかった。
俺が知らない先輩の顔を、今日は色々見れて、昔の俺を褒めてやりたい。
先輩に必要だったのは俺じゃないんだ。
だから泣かなくてよかった、偉かった。
そう、言ってやりたい。
「どうしてお前が泣くんだよ」
「いいから食えよ、腕痛い!」
パクッとケーキを口にしたのを確認してから、俺はフォークから手を離して、ガシャンッとでかい音を店内に鳴らした。
客は、もう俺たち以外はいなくて、ここには俺とこの人、二人きりだ。
好きだった相手が、違う人を想いながら泣いているのを見て、何も感じないわけがない。
「おい……し……だろっ」
泣くのをもう止められなくて、でも聞きたくて…
「堀川っ……」
「あの時……どうして…俺の事……嫌になったの……」
今はもう好きじゃない。
未練なんて、智也と出逢ってからなくなっていた。
でも、だからって、傷付かない訳じゃない。
智也も、たぶんこの人も、同じ理由で俺を嫌になったはず。
いつも、いつも、俺だけが最後まで好きだから。
「堀川……俺もわからない……でも、その後、すぐに後悔したよ。
今もしてる…
お前以上に俺を愛してくれた奴はいなかったよ。
ごめんな…
でもありがとう
こんな、クソみたいな俺を、好きになってくれて…」
ガタッと先輩が立ち上がり、俺の側まで来て、そして俺を立たせるように腕を引っ張りあげ、俺を、強く……優しく抱き締めてくれた。
「辛かったんだよ…!!なんで、自分は男なんだって、毎日、毎日、思ってた!!」
「ごめん……っ」
懐かしいこの人の温度に、感情が揺れて、余計な事まで口にしてしまう。
あの時の先輩なら、絶対に怒っていたかもしれないけど、今は違う…俺の言葉を、一つ一つ、受け入れてくれてる。
そして、
『やっぱり…』
そう思った。
今のこの人は、俺が好きだったあの時の人じゃない。
だから、なのかな…
俺も、ギュッと先輩にしがみついて、顔を上げたら驚いた顔をした先輩と目があって…
どちらからでもなく、自然と…
お互いの唇を合わせていた。
そこには、やましい気持ちも、恋愛感情もない…
ただ、最後の、お別れのキス。
そんな感じだった。
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