アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
大野となごみ3
-
(なごみ語り)
イベント予定地の建物内は閑散として、だだっ広い空間が漠然と続いていた。
ここにブースを作って、動線を考える。それからセンサー付けたり、照明を設置するとなると半端ない労力と下準備が必要になる。気の遠くなる作業のゴールは想像もできなかったが、彼らの頭の中にはあるらしく、寺田と大野君は図面を広げて何やら話し込んでいた。
そもそも僕にはあまり行く必要のなかった視察だから、間もなく手持ち無沙汰になる。
無機質なコンクリートを眺めながらゆっくりと歩いた。
この時間があればどれだけ事務処理が進んだだろうと考えると歯がゆい気持ちになる。
偶には事務所を出て外を見るのも悪くないから、気分転換にして帰ったら集中して仕事を進める決意をした。今日中には帰宅したい。
「なごみさん。」
大野君が僕の側に駆け寄ってきた。寺田の姿は見えない。
「あれ、寺田は?」
「部長が来るらしくて、駐車場まで迎えに行きました。」
「そう。部長が来るなら尚更やることなくなるね。休憩してもいいかな。」
「付き合います。部長へは寺田さんが説明しますから、俺も暇になります。」
大野君と自販機で缶コーヒーを購入し、ベンチへ座った。隣で缶コーヒーを飲みながら、宙を見つめる。確か、こんな光景が前にもあったな。僕が諒を思い出して泣いたんだった。人前で制御が効かず涙を浮かべるなんて、余程精神が弱っていたようだ。あの時よりは今は前向きでいられる。たぶん、渉君のお陰だ。
「あの……この間はありがとうございました。ご迷惑をいっぱいお掛けしてしまって。」
「ああ、うん。別にいいよ。気にしてないから。」
「コンパもすみません。生意気に色々言って。」
「僕も気分転換したかったから気にしないで。そろそろ新しい出会いとか必要かな……ははは。」
あくまでも、大野君の前ではノンケのふりをした。収拾のつかない想いを誤魔化すために、仮の自分になる。そっちのほうが遥かに楽だった。
「そんな無理して笑わなくてもいいですよ。俺の前では素でいてください。」
素か……素の僕を知りたいのか。
大野君は全て知っているようなことを言う。何も知らないくせに、僕を心配したり、労わるような言葉をかけてくるのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 263