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なごみと過去7
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(なごみ語り)
「なごみ君だ。久しぶり。」
いつもの大きな鞄に黒いぶさネコが揺れていた。雨で濡れた身体が、ネオンの光に反射している。
「お久しぶりです。諒さん、真っ黒ですね。」
「あ、分かる?沖縄に仕事で行ってきたんだ。暑かったよ。あっという間に焼けた。こんがりだ。」
ニッと諒が笑うと歯が白く目立ち、黒さが一層際立った。心が押しつぶされそうな切なさに襲われる。
「沖縄に何の撮影で行ったんですか?」
「雑誌のグラビア。綺麗な女の子の水着を撮る手伝いだよ。」
胸がズキンと痛んだ。
そうだよね、女の子の水着か。いつも鍼灸院で会うような気さくな諒ではなく、なんだか遠い存在に感じてしまう。
「本当は空を撮るのが好きなんだ。俺の師匠も同じだけど、儲からないからグラビアも撮ってんの。沖縄の空はすっげー深かった。海と空が呼応してて、それだけで絵になった。空き時間に夢中で撮ったよ。後で見たらひたすら青だけが並んでて、一瞬何を撮ったか分からなかったくらい。」
空に恋する諒も、興奮気味に語る姿も素敵だった。自分が見たことある限りの青を頭の中で思い浮かべてみる。乏しい想像力では限界があった。
「沖縄の空、見てみたいな。行ったことがないから憧れます。」
「今からうちに見に来る?ちょうど現像したところだし、なごみ君にも見てもらいたい。青ばっかだけどな。」
思わず願望が口に出た僕に、諒が提案したのだ。
え、え、えぇーー。
諒の家に行く……って、いいの?
突然降って湧いたイベントに頭がパニックになった。
一呼吸置いて、冷静に、冷静に、と自分を鎮める。
空の写真を見に行くだけだから、何にもない。写真を見に行くだけだから、変に意識することもないんだから。取り敢えず落ち着くんだ。
でも、内心はすごく嬉しかった。
「じゃ、じゃあ、見たい……です。」
「雨は止んだみたいだな。うちはここから歩いてすぐだから、おいでよ。」
いつの間にか雨は止んでいて、地面からはむせ返るような夏の雨の匂いがした。
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