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青黒い蟠りⅨ
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巡が誰かに何か声を掛けた。
巡の母親がキッチンからあらあら、と口に手を当てながら出て来て、待っててとだけ伝えるとキッチンに戻って行った。
状況を理解出来ずに立ち尽くす。
巡の母親は直ぐ戻って来て、俺の右腕を掴んだ。
上げられた手に、カサッと何かが触れて一瞬にして冷やしていく。
何事かと冷えていく手を見ると、痛みは無いのに赤みが増して腫れ上がった右手に、氷の入った袋が乗せられていた。
見るに痛々しい右手に、そんな強く打ったっけ?と疑問を投げかける。
あの時は
巡に触れたくて
逃げられたくなくて
止める事に必死過ぎて、強打した事なんて痛み抜きにして屁の河童だった。
そんな自分が誇らしいと思う反面、情けない。
いや、情けなさでしかない。
自己嫌悪--
そんな事を考えていると……
「痛くねぇ…?」
「巡が何かしたのよね⁉ごめんなさいね」
「えっ、や、違います!俺が勝手に打つけただけなので!」
なんて言い合いになって。
誰も悪く無いのに、責任を擦り付けようとしていた。
埒が明かない気がして、さっきまでの出来事を正直に話す。
巡の母親は、やっぱり巡が悪いじゃないと言ったが、巡が悪くない事を証明していった。
一つずつ紐解いて、誤解を解いていく。
下手くそな説明で、時間だけが過ぎて…。
でも、納得はしてもらえた。
巡はもう聞いてなんていなくて、眠そうにしながら頬杖を付いて不貞腐れていた。
不謹慎だとわかりながらも、そんな巡を可愛いと思ってしまった。
「…やべっ!俺、帰ります!」
「あら、もうそんな時間なの?…また来てね」
はい!と返事をした時点で時計の針は19時を差していた。
玄関まで歩いて、話し忘れた事を思い出して足を止める。
振り返ると、不思議そうな顔で俺を見る巡と目が合う。
忘れ物?と聞かれて頷く。
何?と探しに行こうとする巡の腕を掴む。
「そうじゃない。文化祭の事」
「…そんな事話さなくていい」
「ちげぇよ。…めっ、赤峰作る係で、俺と同じ午前部なんだよ」
だから?と言うような目を向ける。
何処となく睨みが効いてる気がして怖い。
それでも伝えたい事だから、言葉にする。
「明日待ってる。怖いなら迎えに来るから、俺が出来る事はするから……」
「行けるわけなッ--「友達だろ?一緒に作って思い出作んだよ!俺が守るから」
遮って話してしまった……。
言いたい事は言い切った。
それでも来てくれないなら、諦めよう。
俺は頼りないって、自信を無くすんだろうけど、何かのバネになったとポジティブに捉えよう。
その決心が揺らぐ事はない。
お邪魔しました!
と声を掛けて家を後にした。
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