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無力が故に闇に誘われⅧ
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「帰れよ」
口から出た言葉は、思ってもない言葉だった。
淋しいのに、聞きたいのに、誰も答えないなら強がりになるしか他無かった。
強がった分の代償は自分の震えた声だった。
「……これ、今日の授業分のノートのコピーとプリント………はっ、やく元気なって来いよ!じゃな!お大事に!」
凪はそう言って机の上に少し厚みのある封筒を置いて、巡を押し退けて逃げるように部屋を出て行った。
押し退けられてよろけた事で数歩程近くなった俺と巡の距離。
やっぱり巡はそこから動かず立ち尽くす。
下からは大声で「お邪魔しましたッ!」と勢い付いた凪の挨拶が聞こえた。
「お前も帰れよ」
これ以上の重い空気に耐えられず俺から言葉を放つ。
それでも何一つ行動を起こさない。
正直、この時は病人を苛立たせる天才だと思った。
熱で弱った涙ぐむ目で睨み付けて、意味もなく威圧を与える。
涙目で睨まれたって怖くないだろと思うのに、巡は分かりやすくビクッと体を震わした。
何かに怯えているように、その震えは収まらなくて。
無理して起こした体で巡に近寄る。
震えと何処か違う所を見て瞳孔を開く巡は俺が近付いた事にも気付いてないようだった。
震える手を握り締めた時、更にビクンと体が跳ねた。
そんな人にどんな対応していいのか、わからない。
でも、わからないなりに考えて考えて……。
手を更に強く握り締めた。
パシッと払われ、震えが酷くなる。
どう見ても俺の顔に怯えているような気がした俺は、顔が見えなけりゃいいんだろ?と考えて抱き締めると言う行動に走った。
そして謝るのが、今出来る精一杯だった。
「はっ、!!ちょっ!」
理解したのか慌てて離そうと胸板を押す力は、やっぱり弱くて、熱が出てても余裕で避けれて強く抱き締める。
「ごめん、怖がらした……俺も気が動転してて…まじごめん」
「……あっ、あり、えない…!」
叫んだ途端に押された力はさっきとは比べ物にならない強さだった。
あまりの変化に呆然とする。
「かっ、帰る!!……ッ‼これッ!次学校来るまでに読んどけ!!」
一冊のノートを俺に押し付けて、巡も凪同様に逃げるように部屋を出て行った。
取り残された俺と一冊のノート。
時間が経つに連れて冷静になる頭。
一連の行為を思い返して、赤面する。
我ながら大胆行動だった……
と言うか巡は俺の事嫌いがってたじゃないか!
俺が取った行動って
まさか…
考える程恐ろしくなって
「ぅわぁぁぁあぁぁぁあアアアァァァ!!」
頭を抱えて叫んでいた。
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