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十二分
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「では、仮眠室に行きましょう」
……なんか、助けられてばっかりだな、僕……
本当は、僕が助けられる存在になりたいのに……
「…………時雨」
ふいに春くんに名前を呼ばれて顔を上げる。
「私は、十分……十二分、貴方に救われました。
もう、間違えません」
「あっ、僕も、だよ!
時雨くんが、僕を肯定してくれなかったら、たぶんまだ、僕が僕を否定してたと思う……」
「……春くん、日月くん」
ふたりは優しく、にっこり笑ってくれた。
そう言えば……初めて会った頃の日月くんは、悲しそうに笑ってばかりだった。
“僕なんか”って卑下になって……
春くんも、凄く冷たい目をする人だった。
でも、今は、こんなに優しく、明るく笑ってくれる。
……これに、僕が少しでも関係してるなら……こんなに嬉しい事って、ないよ……
「しーくんは難しく考え過ぎだよー。
やっぱしーくん凄いねー、って、それだけでいいんじゃないのー?」
いつも通りの間延びした口調なのに、今は、あまり気に障らなかった。
いつも通りのヘラヘラした笑顔なのに。
「篠宮、ゆっくり休め。
また仕事で忙しくなるぞ、早く元気になれ」
「……うん」
遠回しな言い方に、思わず笑みが漏れた。
優しいんだもん。
僕は皆の優しさに甘えて、仮眠室で少し寝ることにした。
毛布をかけると、自然に眠気が襲ってきて、瞼を閉じる。
皆が仮眠室から生徒会室に戻って行く音を聞きながら、意識が沈む。
そんな中で
「……あまり無理するなよ、時雨。
……生徒会長やってた時も、そうだったよな……
ちゃんと休めよ?
…………心配になるだろ」
聞き慣れてるような…………でも、いつも、間延びしてなかったっけ……
あれ……?
誰の声、なんだろう……
「おやすみ、時雨」
………………虹……?
「生徒会長だからって、仕事ばっかりで、放課後に六時まで残るなんておかしいだろ」
「何、寂しいの?」
「それもあるけど」
「あるんだ」
「鏡見てるか? 隈出来てるぞ、疲れてるんだろ?」
「そう、かな……
でも、ほら、慣れてないだけだから。
会長に就任したばっかりだし」
目の下を指で触ってみる。
何か変化が分かるとも思えないけど。
それを、虹が呆れたように見てくる。
…………ウザいなぁ、なんか。
「……そういう虹こそ、何かあったんじゃないの?」
「ククッ、なんだ、心配してくれてんのか?」
「なんか、いつもみたいなキショいテンションじゃないから……」
「キショいテンション?!
え、ちょっ、おまっ、いつも俺のことそんな風に見てたのかよ!」
「それだよ、それ。
キッショいテンション、ついてけない」
「はぁ~……だいぶショックだぞ」
僕の心配を素直に受け取らないからだよ、馬鹿。
拗ねたように口をへの字に曲げる虹に、少し呆れる。
「…………そういや、時雨。
最近嫌がらせはあるか?」
「嫌がらせ?
あぁ、ノートが破かれてたり、上履きに釘が刺さってたりしたヤツね。
……そういえば、最近はないかも」
そう言えば虹はほっ、と息をついた。
でも……
「それに関しては君もでしょ。
虹は最近は?」
そう聞くと、少し目を逸らした。
「…………あるんだ?」
「大したことじゃない、ノートの間に消しカスが挟まってるくらいだし」
「……なにそれ……地味……」
……虹の癖。
嘘をつく時に目を逸らす。
この時も目を逸らした。
…………なのに、僕は……
僕は……
気付いて、あげられなかったんだ。
君が苦しんでいることも、全て。
もしかしたら、嫌がらせが原因だったのかもしれないし、今となっては、もう何もかもが遅いけれど……
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