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ミヤチャン
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「池宮、コウ?
コウって、どうやって書くのー?」
“ニジ、で、コウ”
「虹……」
掌に指で書いて虹って漢字を思い浮かべる。
「……綺麗だね。
どうしてオレの周りの人って、綺麗な名前の人が多いんだろー」
オレも、綺麗な名前だったら、少し違ったかな。
遊ぶ、なんてつかなきゃ、変わってたかな。
なんて、らしくないことを考えてみたり。
「ちょっとミヤチャンと話したくてー。
そこ行かない?」
“ミヤチャン?”
「池宮だから、ミヤチャン、ダメー?」
“いや、別に”
オレはミヤチャンを連れてまったく使わない物置みたいな部屋に入った。
重ねてある椅子の二番目を取り出して、そこに腰掛ける。
ホコリつもってるからねー。
“で、話って?”
「しーくんのこと」
いつも通りの笑顔で真面目なトーン。
もうこの笑顔は顔から剥がれないんだよ。
ミヤチャンが微かに反応した。
「あれ、語弊があるねー。
しーくんと、ミヤチャンの関係について、ちょっと聞きたかったんだ」
“俺、は……”
ミヤチャンは視線を落とした。
しーくんとどんな関係なのか……どんな関係だったのか。
“時雨がこの学校に来る前、恋人だった”
予想のうちのひとつだったからそんなに驚かなかった。
何かしら深い関係があったんだとは思ってたから。
「なんで死んだの?」
“……時雨には、黙っててくれるか?”
「しーくん、知らないの?!」
これには驚いた。
恋人だったんでしょ、なのに?
“自殺したんだ、それは皆わかってるけど、理由はたぶんハッキリわかってないんだと思う。
……理由に、少しでも時雨が関わってるって知ったらさ、アイツ優しいだろ?
たぶん、自分を責めるだろうから”
「……言わないよ……言えないもん」
ミヤチャンは少し目を細めた。
“イジメにあってた。
それは、俺だけじゃなくて、時雨も”
「……どっちも、イジメられるような人じゃなさそうだけど……」
“イジメの主犯格ってのが、家がヤクザみたいなとこで、気に入らない奴は、いつも侍らしてる奴を使ってイジメるんだと。
俺と時雨は、何不自由なく生きてきたんだろ、ってそれが気に障ったらしい。
訳わからないよな、どんな理由だよ、って”
何不自由なく……?
そんな人が、あんな風に笑うハズがないのにね。
“それからイジメは始まったけど、時雨は王子とかなんとか言われてたから、ソイツの手下的な位の奴らじゃあ、本気でイジメられなかった。
何気に惚れてたみたいだしな”
「ちょっとごめん、そこって男子校なのー?」
“いや、普通に共学。
アイツ笑顔振り撒くし、フェロモンダダ漏れだしで、男女とか生徒教師とか関係なくモテてたんだよ”
「あー……想像できちゃうなー。
で? イジメは?」
“それに気付いた主犯格の奴が、それに腹立てて手下的な奴らに酷い暴力を奮ったらしい。
それが怖くて、イジメは酷くなった。
けど、その頃時雨は生徒会長に選ばれて忙しそうにしてたから、俺が時雨にバレないように、朝早く来て片付けたり色々してたんだ”
「どのくらいの間?」
“たったの一ヶ月くらいだよ”
「……一ヶ月も、続けたの?」
辛いことを一ヶ月も続けるなんて、オレには絶対無理だよ。
それなら、精神的に弱ってもおかしくない。
“それで、流石に俺も辛くなってきて、うまく笑えなくなってきてさ、もういっそぶん殴って止めさせようかな、なんて思い始めてさ。
喧嘩なんか全然できないのにな。
……そんな時さ、アイツが”
ミヤチャンの顔が曇った。
苦痛と後悔と怒りがごちゃ混ぜになったような、そんな表情だった。
“お前が死ねばやめてやるよ、って”
それで、精神的に追い詰められてた状態のミヤチャンは……
“それが、時雨の為だって思ったんだよ。
そんな訳なかったけど……
その時はどうかしてた。
…………今更、だけどな。
このことは時雨に言うなよって言われたけど、言うつもりもなかった。
時雨の為に、なんて言ったら、アイツ罪悪感でまたアレやるかもしれないし”
「…………アレ?」
“……自傷癖があるんだよ。
追い詰められると、右腕を傷つける。
中二の時も、一時リスカしてた”
だから、右腕だけ捲らないのかな。
おかしいとおもってたんだけど。
作業するのに邪魔だから袖を捲るのに、しーくんは右腕は捲りたがらないし。
今思えば温泉の時も、人目に触れさせようとしてなかったかも。
“でも、結局、アイツは自分を責めた。
俺は俺で、死んでから時雨が心配で幽霊になってるし。
死ぬ意味なんかなかった……死ななきゃよかった”
ミヤチャンは悲しそうに目を伏せた。
色素の薄い睫毛が揺れる。
“後は? なにか聞きたいこととかあるか?”
「……しーくんがどう思ってるとか、どんな風に生きてきたかとかは、いつか機会があったらしーくんに聞くから今は大丈夫。
あ、そうだ」
オレは手を叩いて、ミヤチャンに提案した。
「ミヤチャンに協力してもらいたいことはあるよー。
ほら、ミヤチャンってオレ以外には視えてないでしょ?」
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