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頑張り屋
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しーくんの返答を聞いた春が、嬉しそうに仮眠室に続くドアを開けた。
「では、仮眠室に行きましょう」
しーくんの表情を見れば、なんだか暗かった。
そんなしーくんに気付いて、春が声をかける
顔を上げたしーくんは“どうしたの?”なんて顔をしてた。
春は凄く優しく微笑んで、でも力強く言葉を発した。
「私は、十分……十二分、貴方に救われました。
もう、間違えません」
「あっ、僕も、だよ!
時雨くんが、僕を肯定してくれなかったら、たぶんまだ、僕が僕を否定してたと思う……」
「……春くん、日月くん」
優しく笑うふたりに、しーくんは顔を明るくさせた。
本当に嬉しそうにするんだ……
「しーくんは難しく考え過ぎだよー。
やっぱしーくん凄いねー、って、それだけでいいんじゃないのー?」
あー……でも、ダメだなー。
しーくんには、そんなへらりとした笑顔してほしくないのに、オレは無意識にへらへら笑ってる。
「篠宮、ゆっくり休め。
また仕事で忙しくなるぞ、早く元気になれ」
「……うん」
そんなルイルイの言葉に、しーくんが優しく微笑を漏らした。
やっぱり恋人の言葉は、重さが違うんだろーなー。
皆でしーくんを仮眠室に送り届けて、しーくんが毛布をかけるのを眺める。
瞼を閉じたしーくんに、皆安心して仮眠室から出ていく。
オレも戻ろう、と思って、ふとミヤチャンの姿が目に入る。
伝えたいのに、我慢してるような……
オレは体の向きを変えてミヤチャンに近付いた。
「伝えたいこと、あるの?」
小声で尋ねると、ミヤチャンは微かに頷いた。
“たくさんある”
「オレが、言うよ?」
そう言うと、ミヤチャンは触れられない手で、しーくんに触れた。
そうして発した言葉を、一語一句間違えずに、オレがしーくんに伝えた。
「……あまり無理するなよ、時雨。
……生徒会長やってた時も、そうだったよな……
ちゃんと休めよ?
…………心配になるだろ」
もう眠りに入ってるよね。
オレの声は……ミヤチャンの言葉は、届いてないかもしれないけれど……
「おやすみ、時雨」
本当は心の隅っこの方では、気付かなくていい、なんて思ってるオレって、最低だよね。
……少しだけ、怖い。
小さい頃に“幽霊が視える”って人に話して気味悪がられたことがあるから……
しーくんは、そんな人じゃないよね?
…………なんて。
仮眠室から出ると、皆もう仕事に入っていた。
そんな様子を眺めて思う。
皆頑張るんだけど、きっとしーくんが一番の頑張り屋さんなんだろうな、って。
オレなんかは辛かったらサボるし、諦めるし、そもそも嫌な事なんて最初からやろうと思わない。
生徒会は半強制だったから、半ば仕方なくやってるけど……
ルイルイも大変だろうとは思うけど。
会長だし、仕事量は人より多くある。
でも、それに気を使って、しーくんは自分ができる仕事は自分に回すから、本来よりはちょっと少ない。
って言っても多いのに変わりはないんだけど。
春は基本的にはルイルイの補佐。
たぶん仕事量だけなら庶務の次に少ない。
けど、春もそれがわかってるから、お茶とかお菓子とかを進んで用意してくれる。
それから黒ちゃんは、頑張ってると思うんだけど、なにより仕事が少ないから。
けど、配布物を配って回ったり、色んな物を用意したり片付けたりするから、肉体労働?的な面では一番動いてるかもしれない。
それに比べて……
オレ、何やってるんだろー……
邪魔にしかなってないんだろーな。
タイピングくらいしかできないし、計算ミスは多いし、書類なくすし、サボるし。
ほとんど自分のせいなんだけどさー。
…………でも、これが普通じゃないの?
オレからすれば、生徒会の皆は凄い。
けど、しーくんは更にその上に行ってると思う。
気配りが出来て、仕事も他の人より多く受け持って、黒ちゃんがひとりでやりきれない分は、春かしーくんが手伝うし。
それに風紀からの書類のミスも直したり、春も黒ちゃんも居ない時はお茶を淹れてくれることもある。
オレも……何かやらなきゃなー……
一番得意なタイピングを一生懸命頑張ってみるけど、集中力が続かない。
「あー」だの「うわ」だの口に出してたら、煩いってルイルイに怒られちゃった。
それから時間が経って、朝の生徒会の仕事の時間は終わった。
話し合った結果、しーくんはまだ本調子じゃないからこのまま寝かせてあげよう、ってことになった。
「さて、行きますか」
「オレ、ちょっとサボりたーい」
「ダメです、行きますよ」
「お願い~、ほら、しーくん心配だしー」
「それなら会長が居ればいいじゃないですか」
「お願い!
今日はねー、もう行きたくないのー」
「煩いぞ、桜井」
「なに我が儘を言ってるんです、子どもでもなにのに」
「お願い……」
「…………わかりました。
そこまで言うなら、ちゃんと時雨が目が覚めた時にお願いしますよ?
会長もいいですか?」
「………………あぁ」
「間があるよー」
「お前に任せていいか心配なんだ。
余計なことはするなよ」
「大丈夫だってー。
じゃあいってらっしゃーい」
いつも通りの笑顔で見送った後、静かにしーくんの様子を覗いて見た。
しーくんは少し眉を寄せていて、縮こまるような体制で眠ってた。
毛布をかけ直して外に出ようとした時……
「…………虹……」
ミヤチャンを呼んだ声がした。
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