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存在
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振り返れば、しーくんは悲しそうに眉を寄せて、毛布をギュッと握り締めていた。
「しーくん……」
しーくんの目にじわりと涙が滲んで、つぅ、と零れた。
それを見た瞬間、形容し難い思いや感情が胸から突き出て全身を駆け抜けた。
ちゃんとしまっておいたのに、オレの本心が、“こころ”が、叫ぶんだ……
“君はどうしたいの?”
って。
どうしたい?
オレは……オレは……
このままは嫌だ。
今までみたいに適当に過ごすことも出来るけど、それをオレのこころが許してくれない。
「しーくん」
オレに、何ができるかな?
しーくんの為に、何かできるかな?
大切な大切な友達。
しーくんはオレのことが嫌いかもしれないけれど、オレはしーくんのこと大好き。
前にさ、言ってくれたよね、オレが嫌いな理由。
“同族嫌悪”って。
自分とオレは似てるって言ってるようなものだよ?
だから、嫌われててもよかった。
その理由なら、逆に嬉しいよ、オレ。
…………でも、やっぱり、オレとしーくんは違う。
全然違う。
オレはしーくんみたいに優しくないし、強くないし、綺麗じゃない。
狡いし、すぐ逃げるし、弱いし、汚れてる。
「しーくんは……すごい人だね……」
しーくんの涙を拭いて、生徒会室に戻った。
あんな風に泣くんだ……
綺麗に、泣くんだね。
どんな夢を見てるのかな。
悲しい夢かな……
どうせ夢なら、楽しい夢だけ見られるならいいのに。
目が覚めたら、辛い現実なんだから。
それで、見たい夢だけ見られるならいいのに。
オレは少しの間、ぼんやりと空を眺めた。
雲が切れて、くっついて……そんな様子を、ぼんやりと眺めていた。
それから少しでも仕事を進めようと、自分の席につく。
集中はできなくて、クッキーを食べながら、カチャカチャとゆっくりキーワードを叩いていく。
暫くして、ふいに時計を見ると、十時を回っていた。
時間を確認した時、ガチャリと仮眠室の扉が開いた。
仮眠室から出てきたしーくんは、生徒会室の状態を見るなり、目を開いて少し眉を寄せた。
「桜井くん……?」
「あ、しーくん、おはよぉ」
しーくんは、ふいに壁にかけてある時計を見て時間を確認すると、驚いた様子で今度はオレの方を見てきた。
「起こそうとしたんだけどねー、しーくん、随分ぐっすり寝てたからそのままにしちゃったー」
ごめんね、と心の中で呟く。
クッキーを口に運ぶオレを見て、しーくんはまた眉を寄せた。
不愉快かなー。
「で、桜井くんはなんで居るの?」
「んー、気分乗んないからサボっちゃったー」
オレはいつもの通りのへらりとした笑顔を貼り付けると、しーくんは少し視線を逸らした。
それからソファに腰掛けて、暫くお互いに黙ったままでいた。
静か過ぎるせいで、時計の分針が動く音すら聞こえてくる。
その他は、オレがキーボードを叩く音と、失敗した時の「あ」とか、「うわぁ」とか言う声だけ。
昼間なのに、どこか寂しい。
「ねぇ」
「んー?」
ふいにしーくんに話しかけられて、キーボードを叩く手を止めた。
「……なんでこんな時だけ黙ってるの」
「えー? なにが?」
「いつも勝手に何か喋ってるくせに……」
「これでも気ぃ使ってるんだよ?
しーくん、体調悪いかなーって」
笑顔でしーくんの方を振り向くと、朝よりだいぶ顔色がよくなってて安心した。
でも、どこか辛そうだ。
……少し怖がってるようにも見える……
クッキーを食べ終えると入れ物をゴミ箱に捨てて、皆で使ってるウェットティッシュで手を拭いた。
暫くしーくんを見つめてから、おもむろに立ち上がる。
それからしーくんの前に立った。
「今、辛い?」
「…………なに?」
そう尋ねると、しーくんは怪訝そうな顔をした。
「しーくん、すごく苦しそうな顔してるから」
「……そんな顔、してないよ」
「してるよー? 苦しそう」
強めにそう言うと、ふいに俯かれた。
「……しないんだよ」
その声は震えていた。
まるで、泣いてるみたいな……
きっと今、何かを我慢したんだろうな。
「しーくんはすごいね」
オレの言葉に、しーくんは驚いたように顔を上げた。
「オレは、苦しいことも、怖いことも嫌い。
だから、いっつも目ぇ背けてる」
しーくんが口を開くよりも先に、隣に腰を下ろしてさらに言葉を紡ぐ。
「視たくないのに、視えちゃうから……
それが嫌だから、いっつも目ぇ逸らしてるんだぁ、オレ」
言いながら、生徒会室の隅の方で心配そうにしーくんを見るミヤチャンに視線を向ける。
オレの視線を辿るようしーくんも目を向けた。
けれど、しーくんの目に映るのは、きっとただの壁。
「……やっぱしーくんには視えないかぁ……
残念だねー」
ミヤチャンはオレの言葉に、悲しそうに目を伏せた。
オレにしか視えない存在。
どうしてなんだろうね。
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