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時雨くん
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「時雨が仕事以外で休みなんて珍しいよな」
昼休み、教室でお弁当を食べていたら、秀太郎が珍しそうに時雨くんの机を眺めた。
時雨くんのことを思い出して眉が下がる。
四時間目が終わるとすぐ、桜井さんが教室に来て、時雨くんが帰ったことを聞いた。
「時雨くん、体調が優れないんだってね……」
大丈夫かなぁ、と呟くと、秀太郎に頭を撫でられた。
「日月は優しいな」
ふっ、と口元を緩める笑い方にドキドキちゃった。
やっぱりかっこいいよ……
「けど、心配だよな。
やっぱ、ここ最近忙しかったからかな」
「うん……新歓、もうすぐだもんね。
それに……」
時雨くんは働き過ぎだと思う。
ルイの分もやってるし、僕のも手伝ってくれる。
きっと、人一倍気を使ってるし……
顔を暗くさせる僕に、秀太郎が困ったように微笑んだ。
その笑顔もすごいかっこいい……
「時雨の見舞いに行ってみようか」
「え……?」
「仕事終わった後。
迷惑かもしれないから先に連絡いれてみてさ。
手伝えることとか、あるかもしれねぇじゃん?」
「うんっ、そうだねっ。
じゃあ連絡してみるね!」
スマホを取り出して時雨くんの連絡先を開いて、メッセージを送った。
すぐに気付けるように、マナーモードを解除しておく。
「日月も、無理しないでな?」
スマホを置いた僕に、秀太郎が顔を覗き込むようにして見てきた。
思わず顔が熱くなっちゃう。
「うん……ありがとう」
「ははっ、本当可愛い」
頭を撫でられて、そのまま手が頬に移動した。
さっきから胸がきゅんきゅんしてしょうがない。
そして顔が近付いて……
「だ、ダメだよっ」
「…………なんで?」
「だ、だって、ここ、教室だし……」
「見せつけておけばいいと思うんだけどなぁ……まぁ、日月が恥ずかしくて嫌って言うなら何もしねぇよ」
部屋に戻ったら色々しちゃうかもしれないけど、なんて耳元で囁かれて、さらに顔に熱が溜まっていくのを感じた。
恥ずかしくて、でも、ちょっと意地悪な秀太郎は僕しか知らないんだ、って思ったら嬉しくて……
うーうー唸りながら顔を手で覆って照れていると、ピコン、とスマホが鳴った。
「あっ、時雨くんから返信きたっ」
急いでメッセージを開く。
“ありがとう(*^^*)
でも気を使わなくて大丈夫だよ!”
僕があからさまに暗くなると、秀太郎が横からスマホを覗き込んだ。
メッセージを読むなり、口をへの字に曲げて不機嫌を顕にした。
……なんだか可愛い……
「ごめん日月、ちょっと貸して」
スマホを秀太郎に渡すと、すごい早さで文字を打って送信した。
返されたスマホを見ると“人の親切はありがたく受け取っておくもんだぜ”って送られてた。
こ、これじゃあ僕が送ったみたいになっちゃってるよっ……!
送った当の本人は口を尖らせて頬杖をついている。
それから間もなく既読がついたけど、返信は来なかった。
後でちゃんと否定しなくちゃ、ってもんもんとしながらその日の授業を終えた。
一度秀太郎と別れて生徒会室に向かう。
扉を開くと、既にルイと春くんが仕事に取りかかっていた。
僕もすぐに自分の仕事を取りかかる。
……けど、間もなく皆してソワソワし始めた。
「……時雨に休んでくださいと言って、休んでくれたことはいいんですが……なんだか寂しいですね」
「うん、僕も思った……」
なんだか集中できない。
ルイだって気にしないフリをしていても、さっきから何度も時雨くんの机を見てる。
きっと、本当は今すぐ時雨くんの所に行きたいんだろうな……
「……そういえば、遊斗はまだ来ていないのですね」
「さっき、多胡先生に呼ばれてたのを見たけど……」
「あぁ……きっと数学ですね。
提出率が悪いということでしょう」
仕方のない人です、ってため息を吐く。
でも優しげな苦笑に、本当に好きなんだな、って思った。
僕は皆みたいに顔立ちはよくないから、秀太郎が僕を好きでいてくれることは奇跡なんだって思ってた。
でも、そうやって相談したら時雨くんは、“顔で選ぶ奴はロクなの居ないんだよ”って笑ってくれた。
“確かに顔で好きになることもあるけど、ずっと一緒に居たいって思うなら、容姿なんか二の次だよ。
僕は、日月くんと秀太郎、お似合いだと思うけどね”
時雨くんはいつもそうやって助けてくれる。
周りの評価を受け入れて自分を下に見る僕を。
秀太郎と釣り合っているかを気にしてばかりの僕を。
時雨くんの言葉で、僕は何度も救われた。
時雨くんが“大丈夫”って言ってくれるだけで、本当に何でも大丈夫に思えちゃう。
ううん、時雨くんが“大丈夫”って言うと、何でも大丈夫になっちゃうんだ。
時雨くんはすごい人。
……だから、僕も時雨くんに何かしてあげたい。
何ができるかな?
僕にできることは限られてるけど、少しでも時雨くんの助けになるなら、僕はなんだってやってみせる。
本当に……時雨くんと出会えてよかった。
何処と無く寂しいまま仕事を終えた。
春くんは遅れてきた桜井さんに怒っていたけど、惚れた弱みっていうか……なんていうのかな。
桜井さんが眉を下げて“ごめんね?”って言ったら、春くんは“しょうがない人ですね”って照れて許しちゃってた。
ルイは仕事が終わるなり、さっさと生徒会室から出て行った。
僕は、というと、秀太郎と一緒に時雨くんの部屋に向かってる。
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