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お見舞い
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時雨くんがお茶を淹れてる時、ふいにインターホンが鳴った。
時雨くんが不思議そうに玄関に向かっていくのを眺めてから、ふと思い当たる。
「あれ、会長……?」
「具合はどうだ?」
そんな会話が玄関の方から聞こえてきた。
やっぱりルイだった。
急いで生徒会室を出て行ったから。
でも、僕達より先に来てると思ってたんだけど……
「全然いいよ、ごめんね?
心配かけちゃったみたいで」
「いや、よくなったならそれでいい。
それより、誰か来てるのか?」
「うん、日月くんが。
あと秀太郎も」
「そうか、邪魔して大丈夫か?
一応色々買ってきたが……」
「うん、全然大丈夫。
あ、ありがとう」
そっか、たくさん買ってたから遅かったんだ……
ひとりで納得していると、時雨くんが玄関から戻ってきた。
なんだか凄く上機嫌に見える。
不思議に思って眺めてると、その後から来たルイが顔を赤くさせてたから、なんとなく察しがついた。
ルイがこんな顔するなんて、今までなかったのに……やっぱり、時雨くんすごい……
「じゃあお茶、どうぞ。
あ、会長も座って?
すぐに夕飯作るね。
日月くんも食べてく?」
「えっ、そんな、悪いよ」
「どうせ作るんだもん、量が増えるくらい、変わらないから大丈夫だよ。
で、どうする?」
「あ……じゃ、じゃあ、あの、いただきます」
「うん、じゃあちょっと待っててね」
時雨くんはルイから受け取った物を持ってキッチンに行くと、軽く眉を寄せた。
「いつまでそこにいるの?
邪魔だからソッチ行っててよ」
「いつもに増して辛辣だな!」
「うっさ……それくらい大目に見なよ、秀太郎の分も作ってあげるから」
「え、まじ? さんきゅー。
って、オレ、手伝った方がいいか?」
「あー……じゃあキャベツ取って。
あと人参、ピーマン、玉ねぎ、豚肉も」
「おう」
なんだか仲が良くて……
友達なんだから当たり前なんだって思うけど、少し、ほんの少しだけ……胸のとこが、もやもやって……
「仲いいな」
ふいに、隣に座ったルイが口を開いた。
僕は秀太郎と時雨くんに視線を向けたまま頷いた。
「羨ましいな」
まさかルイがそんなこと言うなんて思ってなくて、少し驚いてルイの方を振り向いた。
「なんだ」
「……ううん。
珍しいなって思って」
「…………オレには、まったく頼ってくれないんだ。
物を取ることですら、自分でやるからってな」
「ルイにも、そうなんだ……」
何か手伝おうとしても、大丈夫だよ、って言われちゃう。
時雨くんの“大丈夫”は、信憑性が高いから、つい任せちゃうけど、今回体調を崩したことがその結果なら……
本当は無理にでもやらせない方が、いいのかな……
手際良く野菜を切っていく時雨くんを眺めながら考える。
待ってて、って言われて素直にここに座っちゃっているけれど、手伝った方がいいに決まってる。
僕もなにかやろう、って思って立ちあがった時、またインターホンが鳴った。
「えっ……誰だろ……
ごめん、日月くん、ちょっと出てもらえるかな」
「え、あ、うん!」
些細な事。
それでも頼ってもらえたのが嬉しくて、顔を綻ばせて玄関に向かった。
鍵を開けて扉を開くと……
「ああ、時雨、大丈夫ですか?!
……って……日月でしたか、すみません、唐突に……」
扉を開いた先に居たのは、慌てたような春くんだった。
「もぉ、春ちゃんってば、早いよー」
桜井さんの声も聞こえた。
もしかして、ふたりもお見舞いかな……
「あ、今ね、僕と秀太郎とルイがお見舞いに来てるんだ」
「そうでしたか。
私もお邪魔してよろしいですか?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
勝手に上げちゃったけど、大丈夫だよね……
ちょっと不安になりながらリビングに戻る。
「あ、日月くん、誰だった?」
「時雨っ、具合はどうですか?!」
「あれ、春くん?」
時雨くんを見つけるなり近付いて頬に手を添えた春くんに、時雨くんが少し驚いた様に目を開いた。
「あぁ、顔色は随分良くなりましたね。
良かったです。
って、どうして料理なんかしているんです」
「これから皆の夕飯作ろうと思って。
春くんも食べていく?」
「よろしいのですか?
……ではなくて、病み上がりの貴方に料理なんて、負荷のかかることはさせられません。
私がやります」
「あはは、大袈裟だなぁ。
大丈夫だよ」
「大丈夫ではありません。
さぁ、包丁を渡してください」
「ダメだよ、春くんはお客さんなんだから」
「貴方は病み上がりでしょう?」
「じゃあ、オレがやろっかー?」
互いに譲らないふたりに、やっとリビングに来た桜井さんが、笑いながら口を開いた。
ふたりが一斉に桜井さんの方を向いた。
「なんで居るの」
あからさまに嫌悪を顕にした時雨くんに、桜井さんはなおも笑っている。
「お見舞いだよー?
ほら見て見て、しーくんの好きそうな、チョコレート系のお菓子だよー」
「ようこそ」
桜井さんが持っていた袋の中身を見せると、途端に時雨くんの態度が変わった。
それがなんだか面白くて、思わずくすくすと笑ってしまう。
「でさ、話戻るけどー、オレ結構料理得意なんだー。
オレが作ってあげるよー」
「……そうですね。
遊斗はこれでも料理の腕前はいいんです。
彼に任せましょうか」
「でも……」
「篠宮」
渋る時雨くんに、ルイが口を開いた。
それから少しだけ微笑んで手を差し出すと、時雨くんは照れたように、でも嬉しそうにルイの隣に来た。
「……じゃあ、よろしく……」
「うんうん、任せてー」
「私もお手伝いします」
「オレも何かやろうか」
腕捲りする桜井さんと春くんに、秀太郎が豚肉のトレーを持ちながら尋ねた。
「そうですね。
では、食器を運んでいただけますか?」
「ん、わかった。
時雨、食器、使っちゃマズいのとかあるか?」
「ううん。
あ、待って、一番左の棚はダメ。
会長と兄さんの専用の食器だから」
ね、と微笑んでルイを見る時雨くんに、秀太郎が苦笑した。
本当に想い合ってるんだな、って今更思って。
優しく微笑み合うふたりに、ほんの少しだけ羨望を抱く。
それから、そんなふたりを尻目に、僕も何か手伝う為にキッチンに向かった。
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