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見回り
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翔くんから規則について説明があって、パフォーマンスも終わった。
ダンスとか吹奏楽部の演奏とか、そんな感じのがあって、けっこう盛り上がってたし、こういうの見てると、金持ちも凡人も楽しめるものは同じなんだなぁって思う。
それから次はとうとう鬼ごっこ。
ルールはクリスマスパーティーの時のあれと一緒。
生徒会は前半と後半に分かれて、風紀と同じように見回りすることになってる。
見回りをしてない間は、捕まった人とか、捕まえた人とか記録するらしい。
僕は後半に見回りに行く係。
鬼ごっこが始まって、早くも一時間。
制限時間は二時間だから、そろそろ見回りも交代の時間になった。
「時雨くん、僕代わるね?」
「あ、お疲れさま。
ありがとう」
日月くんと交代して、そのまま体育館から出ようとして、直前、忙しそうにしてる会長と目が合った。
会長は僕に気付いて、少しだけ微笑んでくれた。
あぁ、もう、どうしよう……
なんでこの人、こんなかっこいいんだろう……!
照れてるのをバレないように少し笑ってから、体育館から出た。
さっきの、質問コーナー?の時の会長があんまりにもかっこよかったから、なんか目が合うだけですっごい照れちゃう……
また熱くなってきた顔を手で覆いながら、歩き出す。
ふいになんとなく立ち止まっては、ぼんやりと思う。
幸せだな、って。
こんなに好きな……大好きな会長も、僕を好きでいてくれて、泣きたくなるくらい嬉しい言葉をもらえる。
また歩き出して、会長の言葉の余韻に緩む頬を押さえつつ、ちゃんと見て回る。
顔の熱がひいた頃、ふと気付けば、西校舎に来ていた。
会長、ここですっごいビビってたなぁw
可愛かったwww
あれから何ヶ月だろう。
まだ片手で数えられる程度なんだろうな、ちゃんと数えれば。
それなのに、こんなに会長のこと好きになるなんて……
なんだか、もうずっと一緒に居るような気がする。
会長が猫とじゃれてた辺りに腰を下ろして、空を見上げた。
晴れと曇りの間みたいな、そんな曖昧な天気だった。
ふと厚い雲が太陽を覆った時……
「時雨!!」
聞き覚えのある声に、一気に気分が沈む。
最近は聞いてなかったのにな……
なんて思いつつ立ち上がってから振り返って、体が強ばった。
「なぁ時雨!
お前、本当は悪い奴だったんだな!」
悪い……?
僕が?
それでも心当たりがあったのは、安曇野の後ろに、景が居たから……
「景……」
僕が呼ぶと、景は視線を逸らした。
ねぇ、話したのかな、コイツに。
「ちゃんと皆に謝れよ!」
謝ったよ、何度も。
それでも足りないっていうの?
…………それでも、足りないよね……
「聞いてるのか?!」
「痛い……離してよ……」
腕をすごい力で掴まれても、振りほどく気にもなれなかった。
どうしてこんなに虹に似させるの……
どうして僕は……景と虹を重ねるの……
もう……嫌だなぁ……
「ちゃんと謝らないとダメなんだぞ!」
「……ごめん……景」
でもね、謝っても、きっと許してくれないよ。
…………景がどれだけ虹を大切に思ってたのか知ってる。
人付き合いが苦手な景は、親しい友達もいなくて、誰かを頼るのが苦手で……
虹が、唯一だったから、誰より何より、虹を大切にしてた。
そんな景から虹を奪ったら?
憎むだけじゃ足りない。
謝ったって仕方ない。
……そうやって今まで景から逃げてきた罰かな。
それならそれでちゃんと、受け入れるから……
目を逸らしたままの景を見つめていたら、安曇野に、掴まれた腕に力を入れられた。
「時雨は悪い奴なんだから、ちゃんと罰を受けなきゃダメなんだぞ!」
コイツは何言ってんの。
なに罰って、馬鹿みたい。
大体、なんでコイツに言われなきゃいけないの。
関係ないくせに……
苛立ってしょうがないから、我慢するように俯いた。
「なに、罰って……
君には関係ないでしょ」
「関係あるぞ!
おれだって時雨に傷つけられたんだからな!」
「はぁ? 何言ってんの……」
呆れて安曇野に視線を向ける。
核爆弾でも傷つかないような図太い神経してるくせに。
「とにかく離してよ、痛い」
「おれにも謝れよ!」
「うっさ……声デカいし……
っていうか、心当たりなんかまったくないんだけど。
妄想癖と虚言癖、いい加減直しなよ」
「なっ、なんでそんなこと言うんだ!!
最低だ!!
友達にそんなこと言っちゃいけないんだぞ!!」
何が友達……
こんな自分が一番大事っていうような奴、友達にしたくないし。
「おれも景も亮も時雨のせいで傷ついたんだぞ!」
僕はめいっぱいの力で安曇野の手を振りほどいた。
「煩いな」
酷く冷たい声色だったかもしれない。
安曇野を見下すように立って、女みたいに可愛らしくて憎たらしい顔を片手で掴んだ。
さっき腕を掴まれた仕返しを込めて。
「ちょっと黙ってなよ、お前」
僕の言葉に、掴まれて尚も騒いで抵抗していたのがピタリと止まった。
景も、やっとこっちを振り向いたのがわかった。
見下した安曇野のその顔はなんだか、蒼白っていうような色をしていて……
あぁ……滑稽。
手を離して、言葉を紡ぐ。
「君が傷ついたって?
じゃあ聞くけどさ、君のせいで一体どれだけの人が傷ついたと思ってるの?
暴言、暴力の傷害、器物破損。
それで怪我をした子も、傷ついた子もたくさんいるのに、お前だけが被害者ぶるな」
「お、おれは悪くない!
あっちがおれのことバカにするから!」
「じゃあ僕がここで君を馬鹿だ何だって罵って、それですぐに殴るの?
餓鬼か、お前は。
いくつになったのかなー? 坊や」
「ばっ! バカにするなよ!!」
「確かにさ、君に喧嘩ふっかけてきた奴もいるかもしれないけど、でもほとんどは、テメェの自己中心的な考え方招いた事ばっかりだろ。
親の権力を、さも自分が持ってるものかのように振りかざすんじゃねぇ」
言いたいことはまだたくさんある。
だけど、景がここに居るのを思い出して、一度口を噤んだ。
「でも、君が傷ついたことを僕が言ったっていうなら……ごめんね。
…………まだ仕事があるんだ、何か言いたい事があるなら、後にしてくれるかな」
答えは期待してない。
僕はふたりに背を向けて、足早にその場を離れる。
後ろから安曇野の大声が聞こえてきたけど、振り向けなかった。
…………景の顔が……見れないから……
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