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亮が
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「時雨!!」
もうすっかり聞き慣れた騒音みたいな声。
それに、なんだか冷めてる僕がいて。
隣の桜井くんはいつもみたいにヘラリと笑っていた。
日月くんは秀太郎と先に生徒会室に向かってて、会長と春くんはなんか兄さんに呼ばれて行った。
残った僕と桜井くんは仕方なしに一緒に生徒会室に向かって歩いてた、途中だった。
階段の踊り場で後ろから大声で呼ばれたのは。
「今日はどうしたの?」
また何か文句が言いたいの?なんて意味を込めて軽く笑う。
でもなんだか今日の安曇野は機嫌がいいみたいで、なんだか気持ち悪い。
「時雨は恥ずかしかったんだろ?!」
「…………はぁ?」
何言ってんの、このとんちんかん。
妄想癖もいい加減に治してくれないかな。
「おれに酷いこと言ったのは、皆の前で付き合ってるって言うのが恥ずかしかったんだろ?!」
「ちょっと待って。
僕、君のこと嫌いって言ったよね?
ね?」
「えー、オレに聞かれてもー?」
「だから、恥ずかしくてそんなこと言っちゃったんだろ?!
そのことは許してやるから、付き合おう!」
「え、やだ」
「恥ずかしがるなよ!」
いやいやいや、恥ずかしいとかじゃねぇし。
なんなの?
話通じなさ過ぎてついていけないんだけど。
「尋はしーくんが好きなんだねー。
あれ、でも亮ちんは?
付き合ってたんじゃないのー?」
「おれと亮はただの友達だぞ!」
「付き合ってるって噂あるよねー。
でも違うんだー、そっかー」
ひとりで納得してる桜井くんに、どうせ口挟むなら助けてくれればいいのにって軽く睨む。
「僕、会長と付き合ってんの、知ってると思うけどさ。
だから君とは」
「時雨は脅されてるんだろ?!」
「…………何言ってんの、お前」
脅されてる?
ばっかじゃないの、コイツ。
ほんとに頭おかしくなったんじゃないの。
「大丈夫だぞ!
おれがちゃんと」
「あんまり馬鹿言ってると僕も怒るよ?」
口元に薄く笑みを浮かべて首を傾げる。
隣で桜井くんは少しだけ視線を逸らした。
あれ、そんなに怖い顔してるつもりないけど?
「僕はちゃんと会長が好きなんだよ。
どうして勘違いしたのかわかんないけどさ。
なんなら君の前で会長とキスでもしてみようか?」
「だ、だって亮が……!!」
「…………亮ちんが……?」
軽く腹を立ててる僕の横から、いつもより抑揚を抑えた声が聞こえて思わず口を噤んだ。
「ほんとに亮ちんがそう言ったのー?
ねぇ、尋?」
「あ、違っ……!」
「ほら……尋……怒らないから言ってごらん……?」
桜井くんは目を細めて、いつものヘラヘラしたのとは違う、妖しい笑みで安曇野の頬に手を滑らせた。
こういう表情ができるからセフレだのなんだのがいた訳かな、なんて思ったりして。
今の桜井くんにはちょっと失礼かな……
「りょ、亮、がっ……」
「うん、亮が?」
「時雨は、ほ、本当は、恥ずかしかった、だけ、だって……」
いつもあれだけ騒いでる安曇野が、桜井くんの色気に当てられたのか、吃りながら小さく本当のことを漏らした。
顔は真っ赤になって、まるで興奮してるみたいなソレは、はっきり言って不快感を覚えて吐き気がする←
こんなの見てたらアレルギー発症しちゃうよ、ほんと。
「ルイルイに脅されてる、って言ったのも?
亮ちんが言ってたの?」
「あ、っ……そ、う……」
桜井くんの手は頬から首筋に、それからワイシャツの中に入っていって……
安曇野はなんだかその先を期待してるみたいな表情をしていた。
ほんっとキモいから早く終わんないかな。
コイツの欲情した顔なんか見て、誰が得するの?
ねぇ。
「そっか……
ちゃんと言えて偉いね、尋。
……ご褒美ほしい?」
くすりと笑ったそれは、確かにエロいとは思う。
安曇野なんかはもうとっくに骨抜きにされてて、微かに何度か頷いた。
……っていうか、コイツ意外とそういうコトしてるんだろうなぁ。
なんていうの? ビッチ?w
「でも、オレともそういうコトしたいって思っちゃうなら、しーくんのことほんとに好きかわかんないよねー」
ぱっ、といつもの調子に戻った桜井くんに、安曇野は呆けたように数回瞬きをした。
それから恥ずかしさか怒りかなんなのか、顔も耳も真っ赤にしてわなわなと震えはじめた。
「ほんとだよね。
それで付き合おうとか言われてもなぁ」
やっと終わったっていう安堵もあって、軽くため息をつく。
「なっ、おまっ、な……!!」
日本語喋ろうかw
「も、もう怒ったからな!!
せ、せっかく、許してやるって言ったのに!
もう全部叔父さんに話してやる!!」
「はぁ?」
「叔父さんに言って、お前らなんか退学にしてやるんだ!!」
またコイツ、出来もしないこと言ってるし。
「って言ってるけど大丈夫かなー?」
「大丈夫でしょ。
大体、要さんは身内のお願いだからって、そんなに簡単に退学になんかする人じゃないよ」
「へ~、よく知ってるんだねー」
「……兄さんの恋人だしね」
意味不明なことを叫び続ける安曇野を他所に、呑気に話してたら、とうとう「死ね 」だのそういうことまで言ってくるようになった。
お前の“死ね”なんかで誰が死ぬか。
「オレ、あんまり“しね”って言葉好きじゃないなー」
目を細めた桜井くんは、またいつもとは違う笑顔を浮かべてた。
ヘラリ笑う顔、妖しく微笑む顔、今度は冷めた目をして笑った顔をしてた。
笑う……とは少し違うようにも見える。
歪な笑顔だと思った。
でも、僕もきっと冷めた目をしてる。
何か言い返してでもやろうかと口を開いた時、視界の隅で長身の男を捉えた。
目を向ければそこには、安曇野に適当なことを吹き込んだ本人が。
「亮!!」
僕の視線の先に気付いた安曇野が声を上げた。
怒気を含んだ声色に、何があったのかをなんとなくでも察したみたいだ。
橘は安曇野をじっと、まるで睨んでいるみたいに見つめると、ふいに階段を登って来た。
そして安曇野が怒鳴ろうとしたのか口を開けた瞬間。
「っ!!?」
呻き声と、打ち付けられる安曇野の体。
あまりに唐突で、驚いて目を見開く。
今…………殴った……?
困惑して橘に目をやる。
まるで見下すような冷えきった目に、少しだけ怖くなった。
「尋……」
「っ、ぁ……っ……」
痛み、というより恐怖。
橘が名前を呼ぶと安曇野は震えた声を漏らした。
「…………使えない……」
「聞き捨てならないかなー、今のは」
吐き捨てるような橘の言葉に、桜井くんが口を挟んだ。
不満を顕にするような表情は、ふざけてるようにしか見えないのに、橘を見つめる目は少しだけ怒りの色が滲んでいる。
「……ゆ……うと……」
小さな声で途切れ途切れに。
これは、橘と初めてあった頃の喋り方と同じだった。
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