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クリスマスパーティーまであと3日と迫った今日。
日月と篠宮がクリスマスパーティーの企画書を制作してくれたようで、随分助かった。
だからと言って、橘は来たり来なかったりでなかなか仕事は片付かず、相変わらず忙しい。
オレ、一ノ瀬ルイは、短くため息を吐いた。
そんな時、生徒会室の扉が開いた。
勝手に開いて入ってくるのは睦月だろうと思って、文句を言う準備をしていたら、入ってきたのは理事長だった。
日月は酷く焦っていた。
オレだって焦ったが。
理事長は篠宮を見つけると、“アレ”と言った。
そういや、転校初日にそんな話をしていた気がする。
まだあれからたったの2週間か。
随分長く感じるな。
理事長は生徒会室の外から何か段ボールを置いた台車を押してきた。
それを見るなり篠宮の顔が輝いた。
段ボールを開けるときは目がキラキラ光ってたな。
篠宮は中を見ると声を上げた。
「うわぁっ。
すごい!
あっ、こんな貴重な物までっ。
わぁ、すごいすごいっ」
「ふふっ、まるで子どもだね」
確かにはしゃぐ姿はおもちゃを与えられた子どものようだ。
だが、取り出したものはおもちゃとは程遠く、分厚い何冊もの本だった。
あれをもらって喜ぶのか?
オレは本は好きじゃない。
よく聡明だとか言われるが、はっきり言って本は嫌いだ。
だが篠宮は満面の笑みだった。
「うわぁっ、もう要さん大好きっ!!」
「おっと」
篠宮は本を持ったまま要さんに抱きついた。
そしてまた段ボールの前に戻る。
「時雨くんって本好きなの?」
「うん、大好きっ!
っていうか愛してる!」
にっこりと笑うそれは、いつものような笑顔とは違くて、無邪気で、純粋で、一瞬見とれてしまった。
不覚だ……
ふいに篠宮は動きを止めた。
そしてポツリと何かを呟いた。
その顔に、さっきまでの笑顔はなかった。
篠宮が見つけた物は本と本の間に挟まっていたようで、手紙のようだった。
不思議そうに開いている。
そして表情が消えた。
きっとここからだからわかるんだろう。
篠宮の表情がよく見える。
今度は悲しそうな顔をした。
コイツの負の表情なんて、初めて見た。
「…………要さん、これって……」
「ごめんね、ついこの前、彼の担任から預かったんだ」
「…………そっか」
呟いたあと、篠宮は勢いよく顔を上げた。
そこにはすでにいつもと同じ笑顔が貼り付けられていた。
「うん、ありがとう!
あ、じゃあ、これ運ぶから、今日はもう帰るね。
ごめんって、会長、そんな顔しないでよw」
…………イラついたのがバレたか……
だけど、これは仕事をせず帰るお前にじゃない。
どうして嘘をつくんだ。
篠宮は台車を押して帰っていった。
オレには自分の事を信じてほしい、なんて言っておいて、お前はそうやって隠してるじゃないか。
…………オレも人のこと言えないか……
信頼なんて必要ないとか、関わりを持ちたくないとか思っておきながら、篠宮のことをもっと知りたいと思ってる。
「ルイ」
ふいに名前を呼ばれて顔を上げれば、真面目な顔をした日月と目が合った。
「ルイって、時雨くんのこと意識してるよね」
オレが……あいつのことを?
「んな訳……」
「あるくせに。
…………僕、時雨くんに可愛いって言われたんだ。
その時、いつもみたいに僕なんか、って言おうとしたけどやめたの。
だって嬉しかったから」
日月は微かに笑った。
そしてこめかみを掻いた。
これは日月が照れた時のクセだ。
「否定するのやめよう、って思えた」
「…………」
「時雨くんって不思議な人だよね。
求めてることを知ってるみたい。
……ルイって周りに関心がないよね。
だから、何を言われても喜ばないし悲しまないし、怒ることもしない。
でも、時雨くんが来てから変わったね。
なんかたまに怒ってるし」
「…………意識はしてない」
「うん。
だと思ったよ」
何が言いたいのかわからない。
日月はそんなオレの心情を汲み取ったのか、口を開いた。
「時雨くんが来てくれて良かったってこと。
僕じゃルイのこと、癒せないから」
…………気にしてたのか。
「オレのことなんか気にしなくていい」
「気にするよ、幼馴染みだもん」
日月は「資料貰ってくる」と、生徒会室から出て行った。
………………
オレが、篠宮を意識してる?
そんな馬鹿な。
…………
あながち、間違いでもないのかもしれないな。
認めたくはないが。
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