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過去(時雨)4
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あれから半月が経った。
1日の半分以上を部屋で過ごし、兄さんに迷惑をかけてる。
「死んじゃえばいいのに」
何度も、呟いてはカッターを手に取った。
刃を当てて、少し切って、血が出て、そこで思いとどまる。
「また…………」
ぼんやりと傷口を見る。
痛い。
ピリピリした痛み。
何回も体験した。
傷の周りが少し腫れてきた。
滲む血をそのままに、窓の外を眺める。
もう夕方だ。
その時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
ほとんど無意識に玄関の扉を開けていた。
「っ!」
「時雨。
……先生に聞いて来た。
勝手に悪いな」
「帰って」
「ほら、溜まったプリント。
早く学校来いよ」
「行かない……
それからもう来ないでくれ」
「…………ん?
……お前っ!」
「い゙っ! なに…… っ!!」
目の前の男は僕の右腕を掴んでいた。
怖い顔をして。
「離して……」
「お前、これ……」
「離せっ」
なに、コイツ……チカラ強い……
ビクともしない。
「何してたんだ……」
「な、なんだっていいでしょ……
僕に関わるなって……」
「時雨……」
傷はあまり深くはなくて、流れた血はすでに固まりかけている。
「…………カッターで切ったんだよ。
別に死ぬ気なんかない。
大体リスカなんかじゃ死ねないことくらい知ってるだろ。
もういいか、さっさとプリント寄越して帰れ」
掴まれた右腕が痛い。
チカラ入れ過ぎだ、ふざけんな。
「上がらせろ。
せっかく来たんだから」
そう言うなり靴を脱いで中に入ってきた。
「か、勝手に入ってくるなっ。
さっさと帰れって……」
ダンッと音がして、僕の顔の横には手が置いてあった。
壁ドンなんて流行りじゃない。
「ソレのこと聞くまで絶対に帰らない」
「っ……ふ、ふざけんなって……迷惑なんだよ!
なに、同情っ?
僕の噂聞いてんだろ?!
要らねぇんだよ!
あんな風に見られて、もう、頭がおかしくなりそうで……!
兄さんにも迷惑ばっかり……
僕なんか……
僕なんか死んじゃえばいいのに……!」
そう言った瞬間、ポロポロと涙が出てきた。
顔の横から手が退かされた。
僕はその場にしゃがみ込んだ。
「……なんか、って言うな」
「……煩い……」
「もっと自分を大切にしろよ」
「煩い……」
「泣くくらい我慢するな。
もっと人を頼れよ」
「頼れる人なんか……」
「お前が迷惑かけてるっていう兄貴を頼ればいいだろ。
そうやって塞ぎ込んでる方が迷惑になるだろうが。
それに俺も居てやる」
なんで上から目線なんだよ……
僕と目を合わせるように、ソイツもしゃがんできた。
僕は見られたくなくて、目元を乱暴に拭いて睨んだ。
「可愛くないな、お前」
「煩い、不細工」
「不細工っておまっ……」
「帰れ」
「お前、ブレないな。
まぁいい。
とにかく、それ、手当するぞ」
「自分でやる。 触るな」
僕はソイツを押し退けて、洗面所で血を洗い流した。
固まった血の塊は爪で皮膚から剥がす。
「うわ、痛そ」
「煩い。
まだ居たの」
適当に絆創膏を取り出して傷口に貼った。
「適当だな」
こんな薄い傷ひとつ、いちいち消毒とかする必要ないって。
「もういい?
十分でしょ」
「あぁ。
ほら、プリント。
明日は学校来いよ」
ソイツは、プリントを渡してようやく帰っていった。
『そうやって塞ぎ込んでる方が迷惑になるだろうが』
その言葉を思い出す。
確かにそうかもしれない。
兄さんは、母さんじゃない。
僕のことを心配してくれる…………
ソファに座ってぼんやりしていると、玄関の扉が開いた。
「ただいまー……
あれ……時雨?
珍しいね、リビングに居るの」
兄さんは買い物袋を重そうに持って笑っていた。
僕は兄さんの前に行くと、
「おかえりなさい……
荷物、僕も運ぶ」
「え……あ、無理しなくてもいいんだよ?!」
僕が首を横に振ると、兄さんは微笑んだ。
「ありがと、時雨」
買い物袋をひとつ持って、キッチンまで行く。
「兄さん……あのね……」
荷物を置いて兄さんを見ると、兄さんも僕を見てくれた。
「今まで、迷惑かけて……ごめんなさい……」
「時雨…………そんなことさ…………これからも互いに迷惑かけあって生きていくものだよ。
家族なんだから」
兄さんは優しく笑って、僕を抱きしめてくれた。
………………温かい…………
「辛いことがあったら愚痴って、苦しいことがあったら頼って、嬉しいことがあったら分け合って。
そうできるのが家族なんだよ。
オレ、今まで家に居る時間が少なかったけど、これからはちゃんと傍に居るから」
兄さんの言葉に涙が出てきた。
兄さんの服濡らしちゃうな、って思ったけど、兄さんはずっと抱きしめていてくれた。
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