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怖い
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朝早くにルイから電話が来て、風邪だって言う。
僕、黒澤日月は、二人だけだけど頑張ろう、と意気込んで生徒会室に向かっていた。
……なのに……
後ろから誰かに襲われて、口を塞がれて音楽室に連れ込まれた。
「な、なにっ?」
「アンタさぁ、少し女装が似合うからって、調子のんないでよね」
見れば、可愛らしい顔立ちの小柄な男の子と、その後ろに、ガタイのいい男たちが五、六人立っていた。
この状況には覚えがある。
制裁だ……
これからされることをよく知ってる僕は、身体が震えるのを感じていた。
前はルイのおかげで未遂で済んだ。
でも、今日はルイは風邪だ。
今度こそ、本当にダメかもしれない……
怖くて、涙が出そうになった。
その時、僕のポケットに入れてあったスマホが鳴った。
「電話? 出しな」
無理矢理スマホを取られて、その子は電話に出た。
「黒澤の友達?
“しぐくん”とか書いてたけど……」
しぐくん……時雨くんだ……
もし誰かに見られたとき、僕なんかと時雨くんが友達だって思われないために、名前を伏せてた。
そのせいか、その子は時雨くんだってわかってないみたい。
冷たい声色で促す。
「なんとか言えば?
………………
それ聞いてどうすんの?
まぁ、来る勇気があるなら来てみれば?
第一音楽室に居るから。
アンタも一緒にマワしてあげるよ」
その子は、そう言って通話を切った。
ダメだよ……時雨くんが傷つくなんて耐えられない……!
「やめてっ、その人に手を出さないでっ」
「平凡のクセに何僕に命令してんの?
それに、友達を庇うなんて、随分余裕じゃん」
ふん、と鼻で笑う彼に、僕は泣きたくなった。
「お願い……大切な人なの……巻き込まないでよ……っ」
「大丈夫だよ、アンタの隣でたっぷり鳴かせてやるから。
風紀にチクらないように、バッチリ撮っておくしね」
「ど、して……あの人は関係ないよ……」
「だからヤるんでしょ。
アンタのせいで関係ない人が傷つくんだよ?
全部生徒会に近づいたアンタが悪いんだから。
挙句、篠宮くんにも近づいて……」
「時雨くんのこと……好きなの?」
「何平凡の分際で名前呼んでんの?
っていうか、好きに決まってんじゃん。
家柄はどうかわかんないけど、あれだけの容姿だよ?
突っ込んでぐちゃぐちゃにしてみたいよね」
これから来るのは、時雨くんなのに……
それに、時雨くんは容姿じゃないよ……
あんなに優しくて強い人、僕は知らない……
ぐっと拳に力を入れたとき、扉がノックされた。
時雨くん……!
「迎えてやんな」
その子の命令で、髪を染めた厳つい人が扉を開いた。
「なっ、なんでアンタがっ……」
その人は扉を開けると、戸惑って声をあげた。
…………時雨くん……
「おはよう」
ニコリ、と笑った時雨くんに、周りがざわついた。
その子は目を見開いて口を開けて固まっていた。
「時雨くん……っ……」
時雨くんは僕に近づいてくると、僕の前でしゃがんだ。
眉を下げて、「ごめんね」と呟いた。
「時雨くんのせいじゃ……僕が、平凡だから……」
そう言うと、時雨くんの雰囲気が変わった。
「篠宮くんっ、これは……ソイツが……!」
「煩い」
冷たい声だった。
それは恐怖を植え付けるような声色で、だけど僕を捉える瞳だけは、優しく、目を細めていた。
「篠宮くん……っ……な、なんで、そんな平凡なんか」
「…………なんか?」
時雨くんは立ち上がって、その子を見つめた。
いつもの穏やかな笑顔はそこにはなくて、何も感じられない“無”があった。
「そんな奴のこと、庇うんですか……?」
時雨くんは、上目遣いで時雨くんを見つめるその子の胸ぐらを掴んだ。
僕は身体が動かなくて、その様子を困惑しながら見ていた。
「君さ……」
時雨くんはその子に顔を、唇が触れ合う寸前まで近づけた。
その子は顔を赤らめていて、不安になって声をかけようとした時、時雨くんの唇に笑みが滲んだ。
「不細工だね」
「…………え?」
「性格が不細工過ぎる。
残念だね、僕は君みたいな子より、日月くんみたいに健気な子の方が好きなんだよ」
ぱっと手を離すと、その子はよろけながらも、時雨くんを見あげた。
「なんか?
君、人を見下せる立場にあると思ってんの?
とんだ勘違いだね」
時雨くんは冷たい目で、その子を見据えた。
「どれだけ家の人が権力あるか知らないけど、君にも同じだけあると思ってるの?
所詮ガキなんだよ。
威張れる立場にあると思うな」
「……っ……ぼ、僕は……!」
「言い訳なんか聞くわけないでしょ。
日月くんのこと制裁しようとしてた時点で、君は咎められる立場にあるってこと、気づいてないの?」
淡々と、感情が篭ってない言葉が紡ぎだされていく。
こんな時雨くん、知らない……
初めて見た。
きっと、この人は、僕よりもずっと辛いことがあったんだと思う。
時雨くんの雰囲気に、そう感じた。
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