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唸り声
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卵入りのお粥を作った後、会長の様子を見に、寝室に入った。
「会長……?」
薄暗い部屋で、会長の声が聞こえてきた。
辛そうに、苦しそうに、唸るような声。
「……ごめ……なさ……」
「…………会長……」
「……ごめんなさい…………」
僕は会長の隣に立て膝になって、白い手を握った。
熱くて、細い手。
ギュッと握る。
壊れそうだな、なんて思って……
「…………ごめんなさい……」
「……会長…………」
泣きそうな顔で、苦しそうに顔を歪めてる。
僕は知ってる言葉が少ない。
虹みたいに言ってあげられればいいのに……
「…………ルイ……」
名前を呼ぶと、少し反応があった。
「……ごめんなさっ……叩かな、いで……」
「ルイ…………大丈夫だよ。
僕はルイの味方だから……」
…………違う、よね……
そうじゃない。
そうなんだけど、もっと、会長が安心出来るような言葉……
「……好きだよ、ルイ……
僕は……君のこと大切だから…………だから……」
心の底から信頼してほしい。
だって僕はここに来て、ちゃんと、少しずつだし、一歩とも言えないほど小さいけれど、ちゃんと、歩けてる気がするから。
僕と同じような境遇の会長の話も聞かせてもらったし、日月くんや港醍くんみたいに優しくて健気な人とも出会えたし、委員長みたいに芯を持っている強い人のことも知った。
たくさん救われてるんだよ。
虹が死んでからの1年、死にたいのに生きなくちゃいけなくて、苦しくて苦しくてしょうがなかった。
投げやりにもなったし、母さんのこともフラッシュバックして、悪夢ばっかり見てた。
今はそんなことないから。
兄さんもすぐ近くにいるし、多胡先生も……最近電話が繋がらないけど、相談乗ってくれるし。
楽しくて楽しくて、楽しくて…………
最近じゃ会長も心開いてくれるてるかな、と思うし、春くんもケジメつけられたみたいだし。
何が言いたいかっていうと、自分の想いも捻くれた性格も隠して編入してきた頃より、変われたと思う。
それは、会長とか、日月くん、港醍くん、それに、少しだけど兄さんとかのおかげだから。
「会長……僕も返したいな。
それに、たくさんあげたい。
僕が今まで沢山の人にもらった分も、教えてもらったことも、全部」
僕は会長の手を少し強めに握って、片方の手で会長の頭を撫でた。
サラサラの黒髪……
「会長……」
「……………………しの、み、や……?」
「あ、会長……起きた?」
「……あぁ……」
「お粥作ったんだけど、食べれる?
っていうか、できれば食べた方がいいんだけど」
会長は、ゆっくり頷いた。
「じゃあ、今持ってくるね」
「……篠宮……」
「うん?」
「……手……」
「手? ……あ」
そう言えば繋いだままだった。
僕は慌てて手を離そうとしたけど、会長の方から握ってきた。
「もう少し……」
「……え……っと……?」
「もう少し、このまま……」
「……うん」
僕も手を握り返すと、会長の口元がふっ、と緩んだ。
やっぱり、会長の笑顔って綺麗だな……
「……夢……みたんだ」
「……うん」
「辛かった時の……苦しい、夢で……謝っても謝っても、ずっと叩かれるんだ……
それが、凄く怖かった……」
会長は笑みをおさめた。
「怖くて怖くてしょうがなかったとき……お前の声が聞こえてきた気がしたんだ……」
確かに会長のこと、呼んだけど……
会長は目を閉じた。
「その瞬間、凄く楽になった……
…………なぁ…………名前……呼んでくれないか……?」
「…………会長……?」
呼ぶと、今度は苦笑した。
「やっぱりあれは夢か……」
「……なにが……?」
「…………名前……ルイって、呼んでくれたのにな……」
少しドキリとした。
だって、好きだよとか言ってるんだよ?
告白してるみたいじゃん。
会長の言葉は嬉しかったけど、なんとなく気まずくて、僕は話題を変えた。
「…………お粥……冷めちゃうよ?」
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