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入学式
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多忙を極めるこの時期。
昨年、生徒会長だった先輩に聞いてはいたが、まさかここまで忙しいとはな。
“新入生の顔と名前くらいは全員分、目を通してくれ”と、無理難題を教頭に押し付けられ、さらに五月上旬には新入生歓迎会。
六月の頭に体育祭。
七月にはテストだ。
全く以てふざけてるだろ、この学園は。
別に行事が多いことを責めているわけじゃない、全てを生徒会と風紀に任せることを責めているんだ。
大量の資料はオレの机に紙の山を作るだけでは飽き足らず、全員の机に居座る、なんて強情で厄介なんだ。
そうして多忙な春休みは終わった。
そう言えば始業式の挨拶は何を言ったか、思い出せないほどに疲れていたことだけは記憶にある。
おかしな日本語だが、それくらいに疲労が溜まってるってことだ。
ただ、そんな多忙な中にも、嬉しいことはあった。
「会長、同じクラスだね」
そう言って微笑んだ篠宮を思い出す。
それだけで疲れが吹き飛ぶ。
…………実のところ、少し不安だ。
春休みに篠宮の家に泊まらせてもらって……その……まぁ、アレだな。
それから篠宮の色気は増すばかり。
無邪気そうな笑顔なのは変わらないが、どこか妖艶な雰囲気がある。
始業式の後のロングホームルームでは、そんな話をいくつも聞いた。
当の本人は「会長、可愛い~」なんて言ってくる。
可愛いのはお前だし、そういう目で見てくる奴が居ることに用心してほしいんだが……
そんな初日が終わって、今日は入学式だった。
昨日はしっかり寝た(四時間)し、新入生に醜態は晒していないハズだ。
そう言えば入学式は、生徒会全員が挨拶したんだが、やはり篠宮は人気だったな。
ただし、本人は気付いてない。
後に「あの奇声……じゃなくて、歓声、ノリかな……」なんて呟いていた。
もっと自覚してくれないか……
と、言ってみても、伝わらないんだろうな。
賑やかな教室。
春休みが明けて早々に席替えをしたが、篠宮と離れてしまった。
少し斜め後ろを振り向けば、月美と楽しげに会話をしているのが見えて、複雑だ。
日月も羨ましそうに見ている。
余談だが、チャラらい、基、桜井が篠宮となかなか近い席だというのが頂けないな。
さらに言えば、睦月の野郎が篠宮を名前で呼んでいることが許し難い。
篠宮もアイツを名前で呼び始めたし、快くはない。
態度に出すつもりはないが、睦月に仕事の話以外で話しかけられると、つい殴りたい衝動に駆られる。
特に篠宮を話題にしようものなら、窓から突き落としてやりたい程にだ。
「おーい、一ノ瀬ー、あ、居た」
ふいに呼ばれて、不機嫌のままに返事をしてしまった。
手招きをされる。
嫌な予感しかしない。
そもそもコイツ……この先生に呼ばれて雑用じゃなかったことなんて、片手で数えられる程度しかない。
ため息混じりに席を立って、篠宮先生に近づく。
「実はさ、一年の下駄箱、いくつか鍵が閉まってるんだって。
多分去年の一年生が暗証番号のヤツかけたまま閉じちゃったんだろうね。
で、ね?」
そう言って手渡されたのは“ふたつ”の鍵。
「オレが開けに行けばいいんですか」
「理解が早くて助かるよー。
じゃ、オレはこれから職員会議行かないとだから、後はよろしく」
“時雨と一緒に行ってきていいから”
耳打ちをされて、思わず篠宮先生を見返すとウインクをされた。
…………いい先生じゃないか。
篠宮先生はそのまま素早く教室から出て行った。
篠宮に声をかけると、篠宮は嬉しそうな笑顔で来てくれた。
「どうしたの?」
軽く首を傾げられる。
やっぱり可愛いな。
「一年の下駄箱が開かないらしい。
一緒に来てくれるか?」
「うん、行こっか」
篠宮は少しはにかんで、オレの手を取った。
その瞬間、教室で歓声が上がった。
篠宮は肩を跳ねさせて驚いていたが、すぐに笑顔を浮かべると人差し指を口元に当てた。
こういう仕草だな……
「なんか、会長とふたりって久しぶりな感じ」
「このところはずっと忙しかったからな」
篠宮の笑顔につられるようにオレも自然に頬が緩む。
ショートホームルームの時間で、廊下は誰もいない。
ふいに静かな廊下で、篠宮が口付けてきた。
驚いて篠宮を見つめれば、イタズラを成功させた子どものような笑顔で……
それから篠宮が口を開いた。
「会長、大好き」
顔に、耳に、熱が溜まっていくのがわかった。
本当に、コイツは……
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