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過去(時雨)11
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「あ」
「…………なに」
「や、スマホ」
「……が、なに。
ちゃんと日本語喋れないの?」
僕は何故か苛立って、好きだと自覚したばかりの虹にすら、この態度だ。
……自覚したくなかったことを、自覚したから苛立ったんだろうけど。
大体、辛かった時に言われた言葉二、三くらいで人を好きになってちゃ、世話ないよ。
しかも相手が男って……
別に同性愛をどうこう言う気はないけどさ。
そんな訳で、つい虹にキツく当たってしまう。
それでも、虹は不快を表に出さないどころか、笑って受け止めるんだから、タチ悪いよ。
「とにかく、スマホ忘れたからちょっと学校行ってくる」
「明日でいいだろ」
「駄目」
「この依存症が……」
聞こえないくらいの小さな声。
今は何故か、虹に悪態を付くことに少し躊躇する。
クラスメイトだったら容赦なく暴言吐けるのにな。
「なんでそんなにこだわるの」
「だって、夜も時雨と話したいんだよ」
「……は?」
「お前と話してるの、楽しいから」
コイツにしては優しく微笑むから、自覚したばかりの感情が、胸の中で暴れるように。
頬の辺りに熱が溜まっていくような気がして俯く。
「だから、取りに行ってくる」
「なら、僕も行く」
「いいよ、ひとりで行ってくるから」
「お前、僕を残して行く気?」
冗談じゃない。
「ここは僕の家じゃない、虹の家だろ」
「お、名前呼んでくれたな」
「どうでもいいでしょ、とにかく、お前が取りに戻るなら僕も行く、それか帰る」
「帰るのはなし!
けど、自転車でシャーって行ってくるから、大丈夫。
そんなに時間もかからないだろうし、家族も居ないから、そんなに気を使わなくていい」
それにしたって、他人の家に上がるのは初めてなんだ。
なんだか居心地が悪い。
けしてコイツの家だからとかじゃなくて。
そんな僕の心情を知ろうともせず、僕に「帰るなよ」と念を押して、勝手に行ってしまった。
さて、どうすればいいんだろう。
とりあえず、虹の部屋を観察してみた。
木材を基調としたインテリアで纏められていて、なんだか木の温かみを感じる部屋だ。
結構好きだな。
強引なアイツらしくないけれど。
漫画や雑誌ばかりの本棚。
大型のクローゼット。
教科書やノートが乱雑に置かれた机。
僕が腰をかけているベッド。
だいぶゴミの溜まってるゴミ箱。
小さいけれどテレビ。
窓には指紋がベタベタと。
こうして見ると、だらしがない。
漫画や雑誌は読んだら読みっぱなしで机やベッドの上。
テレビのリモコンが本棚に置いてあるとか、脱いだ制服は皺になることも気にしないで、適当に椅子に引っ掛けてるし。
こういう汚いの、嫌いなんだよ。
…………ほんと、なんでこんな奴、好きになっちゃったんだろう……
思えば、好きになる要素なんてないに等しいのに。
……そうだな、僕の好みをあげるなら、清潔で物静かな人。
それでいて話す時は簡潔にして、わかりやすく伝えてくれる。
それから、馬鹿じゃない方がいい。
話が通じない奴は嫌いだから。
それこそ、出会ったばかりの頃のアイツなんか、僕の話も聞かずに、一方的に自己紹介をしたり、勝手に僕の教科書を取って名前を確認したり。
……アイツ、僕の嫌いな要素を詰め込んだような人間じゃないか。
…………けど、虹の声とか、雰囲気が、なんか落ち着くんだよね……
僕は無意識に、散らかった部屋を片付け始めていた。
制服はハンガーにかけて、漫画や雑誌は、発行順に並べて戻す。
リモコンはテレビの近くに。
机の上は……知らない。
こういう状態が勉強しやすいのかもしれないし。
兄さんは部屋は綺麗なんだけど、机は本当に汚い。
でも、それが作業しやすいんだって。
虹も、そのタイプなのかは知らないけど。
そうやって大方綺麗にできて、ひとりで満足している時だった。
コンコン、とノックされたのは。
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