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五時
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手紙が濡れたのは、たぶん、会長のせいじゃないのに、会長はすまなそうに眉を下げた。
恐る恐る触れたグラスをテーブルに戻して、急いでタオルを取りに行く。
その間に、気持ちを入れ替えなきゃ……
もう、五時か……
夕日のオレンジの光が、リビングの窓から射し込んで、家具と床をオレンジに染めていた。
タオルの入ってる引き出しに手をかけて気付く。
手ぇ……震えてる……
手を振ってみても、震えは止まらなくて……
僕は思いっきり頬を両手で叩いた。
…………いった……
でも、気持ちを入れ替えて、ちょっと震えは止まったみたい。
それから適当にタオルを手に取ってリビングに戻った。
「篠宮、さっきの音……どうした、それ」
会長が慌てたように立ち上がって、僕の頬に触れた。
やっぱ会長の手好きだなぁ……
「なんでもないよ、叩いたの。
ほら、気持ちを入れ替える時、やるでしょ?」
「だからってな……やり過ぎだ、赤くなってる……」
呆れたように、でも心配してくれてるのがわかって、顔が綻ぶ。
それからタオルで水を拭いて、そのタオルを絞ってる時、会長が大袈裟に声を上げた。
会長にしては珍しいなぁ、なんて思いつつ、「どうしたの?」って洗面所から顔を覗かせる。
会長は眉を寄せて、さっき濡れちゃった手紙を持ってきた。
「あ、濡れちゃったヤツだったら、気にしなくても……」
そこまで言って、口を噤む。
会長が見せてくれた濡れた手紙を、まだ濡れた手で触れた。
言葉を失って、ただ手紙を見つめた。
「…………変だと思う?」
僕は何を聞いてるんだろう……
「会長は嫌いかもね……
だって……もし、幽霊とか、そういうのが居るならさ……そういうのがきっと、グラスを倒して、水をこぼしたのかな、なんて……
自分で言ってて、変だけど……」
何言ってるんだろう……
でも、あの不自然なグラスの倒れ方は、正直気味が悪かった。
テーブルにぶつかったのかもしれないけれど、あんな風に、手紙をしっかり濡らすような……
前に……会長と入ったお化け屋敷で見た、たぶん幽霊とかいうアレ。
ソレを見たのって、前兆とかだったのかな……
こんな不思議なこと、それ以外にどうやって説明するの?
だって、ね?
誰が手紙に水をかけるなんて方法思いつくのさ。
「気付かないよね……普通。
もう……ほんと、馬鹿……」
暗い方の手紙の、二枚目。
あの異様な空白は……
水に付けることで、文字が浮かび上がる仕掛けがしてあったんだ。
“この文字が見えてるか?
きっと、この文字に気付くのは、俺が死んで、大分経った後なんだろうな。
そういう仕掛けだ”
冒頭はこうだった。
空白には、少し小さめの、虹らしい汚い文字が書き綴られている。
“水で文字が浮かび上がる、特殊なインクで書いてるんだ、見つけてくれてよかったよ。
…………お前は幽霊とか、超能力とか信じてくれるタイプでよかった、じゃなきゃ、これから書くことを信じられないだろうから。
いや、いくら時雨でも、これは信じられないだろうな。
…………なぁ、未来が見えるってどんな気持ちだろうな?
未来が見えるって奴に会ったんだ。
…………俺は、最初は信じてなかった。
でも、ソイツの言う通りのことがあってさ、信じざるを得ないっていうかさ。
たぶん、今の時雨は、ソイツのこと、知ってると思う。
けど、ソイツのこと、恨まないでくれよ。
死んだのは、俺の意思だ。
…………本当は、死ぬべきじゃなかったかもな。
今だから言うけどさ、イジメにあってたんだよ……
俺だけじゃなくて、お前も”
話が跳び過ぎだよ……
“ソイツ”って、誰のこと?
僕も知ってる人って、誰?
…………イジメって、なんだよ……
僕も?
そんな覚えないよ……
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