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求めたらダメなんだ
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「ん?何?」
「お前に話さなきゃいけないことがある」
「何なに、どうしたんだよ急に改まって。
まさか、カノジョできたとか?なぁんて……」
和臣がいつもより増して真面目な顔をするから
冗談のつもりで言ったのに
笑うどころか
和臣の目はいっそう力が入ったように見えた。
「え、ウソ……マジで!?」
「……………いや、彼女はできていない」
「?……じゃあ何?」
「ここじゃ話にくいから、
後で俺に時間をくれないか?」
「お、おぉ……わかった…」
和臣は目元をほころばせ
いつものように優しく笑うと
自分の場所へと帰っていった。
……なんだか胸がざわつく。
よくわからないけど
すごい違和感を感じる。
この
うかれた空気のせいなのか
それとも
周りで何かが変わろうとしているのか。
―――眠りたい。
何も考えたくない。
一瞬だけまぶたを下ろすと
何故か椎名のことを思い出した。
チッ……またアイツかよ。
目を開けて
一年生の列の方向に視線を動かす。
何で探してんだ、俺は。
でも、見つけたい。
けど
余裕なくもがいてる自分が滑稽に思えて
こんな姿を誰にも見られたくないし
知られたくなかった。
どうしようもない葛藤の中で
目を泳がせていると
……………いた!
人と人との隙間から椎名を視界に捕らえると
俺の心臓が破れそうなぐらいはね上がった。
このけたたましい鼓動が
周りに聞こえてるかもしれないと思い
ドクドクと鳴り響く胸を
左手でグッと押さえつけた。
椎名は
アホみたいに騒ぎまくっている連中には目もくれず
初めて見たときと同じように
瞬き一つせずにまっすぐ前を見据えている。
その美しく気高い佇まいに
周りの奴等はため息をつき
見惚れているだろう。
こんな大勢の中から
こんな遠い場所からお前のことを見つけたって
どうこうなるわけじゃないのに。
椎名…………
お前、いま何考えてる?
こっち向けよ、バカ。
………………………
やっぱり気づくな
振り向くな
目があった瞬間にそらされたら
たぶん俺は……………
不意に椎名の体が
誰かにぶつかって傾いた。
「あぶね……」
とっさに現場に近づこうと
足が一歩出かかったところで
椎名の姿は人に飲まれてしまった。
しばらくその方向を見ていたが、
椎名がどうなったのか、結局わからなかった。
『――――やめておけ恭介。』
『お前が今まで求めたものが』
『どんな結末を迎えたのか、
忘れた訳じゃないだろ?』
――――俺の中の『俺』が呟いた。
わかってるよ。
忘れるわけないだろ。
別に何も求めたりしてない。
ただ
助けた子犬が
元気なのかどうか
そう思っただけだ。
……………はぁ。
学校なんてくるんじゃなかった。
なんだかよくわからないうちに疲れ果てた俺は
文化祭の始まりを告げる誰かの言葉で
意識の一部をステージへ送った。
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