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先輩の痕跡
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慌てて胸元のシャツを引っ張り匂いを嗅ぐと
周防先輩がつけていた香水が漂った。
どうしよう!!
先輩の香水が移ったんだ!!
っていうか、なんで
これが周防先輩のだってわかったんだ!?
耳まで真っ赤になり
緊張で首の後ろ辺りにジン…と
血が集まってきた。
鈴木の声につられて
山下も顔を近づけてくる。
「あ、ホントだ!【S-LOVE】だよな、これ」
……S-LOVE?
「すげー椎名、手に入ったんだ!
周防先輩がイメージモデルになってから
バカ売れしてて入手困難な
レア香水なのに!」
「俺なんて2ヶ月も入荷待ちだよ。
つか意外、椎名って香水つけるんだな」
そっか………
『周防先輩の』ってそういう意味か。
「母の知り合いがアパレル関係の人で…
もらったん……だ」
慣れない嘘を立て続けについた僕の心臓は
バクバクとけたたましい音を鳴らし
冷や汗が頬を伝った。
何なんだよ!
僕に何の恨みがあるんだ!
悪いことをしたわけじゃないのに
まるで犯罪者にでもなった気分だ。
あぁ…
早くこの芸人探偵コンビから解放されたい。
二人が『いいなぁ』と羨ましそうに呟くと
突然、ものすごい大きな歓声が耳を貫いた。
「なになに!?」
山下が背伸びをして歓声の原因を探る。
見なくてもわかる。
たぶん、あの人だ。
「あ、周防先輩きた!」
「マジで!?どこ?
あー、クソッ見えねえ!」
周りにいた数人が
渦の中心へ駆け寄ろうとして
四方八方から体を押された。
すごい人気……。
改めて彼が特別な人間なんだと思い知る。
さっきまで
あんなに近くにいて
暴言を吐いてしまったけれど
それなりに会話して
キスしたり
抱きしめられたり……
成り行きで体を預けてしまった相手とは
到底信じられない。
夢だったのかとも思ってしまうけど、
体に移った香水が
唯一の証拠と主張するかのように
また僕の鼻を刺激した。
群がる人混みをボーッと捉えたまま
十数分前の出来事を思い出す。
ブラウンの柔らかい髪の毛が額を掠め
しなやかな腕が僕の体に絡み
鋭く力強い目が
細くて綺麗な指が
耳の奥まで響くアルトな声が
僕の五感すべてを犯していった。
思い出すだけで
また中心が疼く。
変態か、僕は。
これでも精神的ショックはでかいんだよ。
男にイかされるなんて。
最悪すぎるだろ。
それよりもショックなことは
あんなことされても
全然、嫌じゃなかったこと。
それどころか、
あのまま周防先輩に全てを奪って欲しいと思ってしまうくらい気持ちがよかった。
坂崎先輩に触られた時は
虫酸が走るくらい嫌だったのに。
やっぱり
変態だ、僕は。
騒いでいる方に顔を向けると
人と人の間から周防先輩の顔が見えた。
途端にドクドクと心臓が動き
息が苦しくなる。
『周防先輩……』
心の中で名前を呼んだけれど
その姿は人混みに消えてしまった。
今はもう全然届かない場所に
彼がいると思うと
もう二度と関わりのない
別世界の人だと思うと
何故か胸がぎゅっと締め付けられた。
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