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沈黙の代償【side/椎名 春馬】
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すべてを思い出した
今の僕の顔は
きっと海の底のように
暗く澱んでいるに違いない。
エイリアンのような深海魚たちが
『バーカ、バーカ』と言いながら
横を通り過ぎていく
幻が見える。
いつもなら取っ捕まえて
『3枚に下ろしてやろうかっ』
とか言うところだけど
そんな気力もない。
僕のせいだ………
あの時、彼は
倉敷先輩を選ぼうとしていた。
なのに
僕が倒れそうになったのを見て
助けようとして
その拍子に
唇が当たってしまったんだと思う。
――――僕たちが
キスをしたと思っているのか
ステージの下では
わぁわぁ、ヒューヒューと
歓喜絶叫の嵐が巻き起こっている。
こんな状況で「違うんですっ!」
と弁解しても
誰の耳にも届かないだろう。
………先輩……
目だけを動かして
様子を伺う。
さっきと同じように腕を組んで
仁王立ちしているけど
その目は
固く閉ざされていて
何かを考えているようだった。
先輩も早く誤解をといて
元のレールに戻りたいと思ってるはずだ。
落ち込んでいる場合じゃない。
先輩の名誉のためにも
僕がちゃんと説明しなきゃ………っ
ぐるぐるメガネの司会者を
探してキョロキョロしていると
周防先輩の向こう側で
倉敷先輩がうつ向き
肩を震わせているのが目に入った。
―――――…………あ…
もしかして…………
泣いてる………?
どうしよう!
突き刺さるほどの罪悪感が
渦潮のように僕を引きずり込み
さらに心の海深く沈んでいく。
女の子を泣かしちゃうなんて……
僕はなんてグズ人間なんだ!
早く………
早く『違う』って言わないと…………
――――あれ?
倉敷先輩が下を向いたまま
ブンブンと腕を振って
ズンズンとこちらへ歩いてくる。
………あれ?あれ?
周防先輩の前でピタリと止まると
恐ろしい形相で
先輩を睨んだ。
「こっ………のぉ………………っ、
バカ恭介えぇぇ!!!
死ねぇぇ――――っ!!」
………たぶん、周防先輩の体、
宙で2、3周くらい回ったんじゃないかな。
倉敷先輩のアッパーがキレイに決まり
周防先輩は弧を描いたあと
ボールのように床へバウンドした。
ぐるぐるメガネの人が
ひぃぃぃっ、と悲鳴を上げる。
「あわあわ……周防くん、
死んじゃったんじゃ………」
「あの世で二度死ねばいい!」
倉敷先輩はそう言い殴り
黒くて艶やかな長い髪をかきあげると
さっさとステージを降りていった。
しばらく唖然としていた僕は
ハッとして周防先輩へ駆け寄った。
「せ……先輩……大丈夫、ですか?」
「……俺死ぬ……マジで今日死ぬ……」
ブツブツと何かを呟きながら
起き上がった先輩は
ふぅ…と息をつくと
僕の方を見ることなく
元の位置に向かって
歩き始めた。
軽く無視された僕は
その背中を追おうとしたけれど
足は
床に縫いつけられたみたいに
動かなかった。
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