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僕と先輩のあいだには
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怒ってる………?
いや、気づいてない?
それ以前に
僕のことを忘れてる……?
………当然と言えば当然か。
先輩のような特別な人が
僕みたいな平凡な奴を
覚えているわけがない。
例え
覚えてくれていたとしても
あんなことは早く忘れたい、
無かったことにしたい、と
思う方が普通なんだ。
はぁ。
大丈夫じゃないのは
僕だ。
辞退を申し出れば
何もかも丸く治まるのに
言い出すのを
ためらっているのは…………
――――――先輩の隣を
誰にも譲りたくないからだ。
確かに
今朝までの僕なら
投票した奴らを
ミサイルに縛りつけて
宇宙で爆死させたい、と
そう考えたに違いない。
けれど
今は
自分が女扱いされても
構わないと思ってしまうくらい
彼のそばにいたかった。
彼のことを
もっと知りたい。
雑誌やテレビで語られている
甘くてとろけるような
偶像の『周防恭介』ではなく
今朝の踊り場で
僕の心を焼き尽くした
あの瞳の奥で揺らめいている
蒼い炎の正体が知りたかった。
―――――息苦しくなるくらい
僕を圧迫するこの感情は
どんどん
正常な判断力を奪っていく。
こんな卑しい下心のせいで
誰かが傷つくのは
許されないことなのに。
先にステージ中央へ戻った先輩が
面倒くさそうに
顔だけをこちらに向けた。
「なに突っ立ってんだよ
…………早く来いよ」
「………は…はい………っ」
先輩の声に反応した僕は
張り付いた足を必死に動かして
恐る恐る先輩の隣に並んだ。
………はぁ……
息が苦しい…………
ドキドキする………
二人の間にある
数十センチの空間が
互いの熱で埋まっていく。
―――――……
先輩の匂い………
近くに寄りすぎたかも。
もっと離れなきゃ………
けれど
彼から漂う香水が
逃げようとする
僕の体を麻痺させる。
『S-LOVE』
の『S』は『Secret』の頭文字。
山下たちがそう言っていた。
この香りといっしょに
僕の『秘密』が
どうか伝わりませんように、と
心の中で願っていると
「また会えたな」
周防先輩の思いがけない台詞に
僕は驚いて彼の顔を見上げた。
幻聴?
本当に
彼が言ったのだろうか……
相変わらず
仏頂面の先輩は
僕ではなく
真っ直ぐ前を見ていたけれど
自分の顔に穴が開くくらい
まじまじと注がれる僕の視線に
気づいたのか
くっきりとした二重の目を
一瞬だけ動かして僕を捉えると
イタズラに笑った。
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